『その男、東京につき』インタビュー
般若が語る、ラッパーとしての人生と自身のヒップホップ観 「地道にずっと音楽をやってきただけ」
孤高のMC“般若”初の⻑編ドキュメンタリー映画『その男、東京につき』が公開中だ。渋谷からほど近い、様々な文化がせめぎ合う街・三軒茶屋から生まれたラッパー、般若。時代や流行に流されることなく、日本語によるラップにこだわり、その独特なリリックは多くのファンだけでなく、日本のヒップホップシーン、そして音楽シーンに大きな影響を与えてきた。
本作では、これまで触れられてこなかった、壮絶ないじめ経験、音楽との出会いとジレンマ、自殺をも考えたという過去を般若が赤裸々に語る。いくつもの困難に行先を絶たれても書くこと、そして歌うことだけは辞めず、ついに武道館ワンマンライブを成功させた般若。リアルサウンド映画部では、般若のヒップホップ観、本作の感想からMCバトルブームへの複雑な思いまで話を聞いた。
「地道にずっと音楽をやってきただけ」
ーー本作では先日の武道館でのライブ映像も多く収録されています。改めて武道館ライブを
振り返ってみていかがですか?
般若:1つの大きなポイントではありましたが、同時に通過点でもあったと思います。確かに大きな舞台だけど、やること自体はそんなに変わらないじゃないですか。目の前の人が1人でも1万人でもライブをするというだけの話で。武道館ライブが終わったあとは、地元の小さなライブハウスを回ったんです。それはそれでやはりとても有意義なものだったし、まだ僕の人生は続いていますから。
ーーそんな般若さんのこれまで語られてこなかった人生が本作では明かされています。ご自身で本作を振り返ったときに、自分の内心を吐露したような感覚はありますか?
般若:そうですね。全部ではないですが、ところどころで出したんじゃないかな。ぶっちゃけ、俺はこんなに苦労してこんなに成功したとか、ラッパーのサクセスストーリーみたいなものを語っている内容ではないじゃないですか。実際、僕もそんな派手なことをこれまでやっていたわけじゃなくて、地道にずっと音楽をやってきただけなんです。
ーー般若さんご自身では、これまでのラッパーとしての人生をどのように振り返っていますか?
般若:長かったです。だって40歳になって初めて武道館ライブをやるミュージシャンなんてなかなかいないじゃないですか。本当は20代そこそこのときにできるのが1番いいんでしょうけど、しょうがないですね。地道に少しずつ規模を上げていったような感覚です。時間がかかりました。
ーーMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)では“ラスボス”として大きな注目を集めましたが、その後突如の引退発表も話題を呼びました。
般若:俺はバトルを現役でやってきた人間じゃないという違和感が当初から少しはあったんです。その違和感が、続けているうちに自分の中で大きくなってきて。俺は0か100かの人間なので、そうなったときに続けることができないんです。だから、引退しました。今後バトルに出ることもないし、審査員の話も来たりするんですが、それも絶対やらないですね。
ーーそんな般若さんがずっと続けているのが音源制作やライブで、その様子は本作の随所でも観ることができます。
般若:そのペースは、昔からずっと変わらないです。曲を作って、ライブをするというのが僕の生活の基本ですね。どんどん曲を出したいという気持ちがあるので、それならやれるだけやろうというだけの話です。