『おちょやん』杉咲花演じる千代の演技を超えた必死の叫び 視聴者の心にも響いた千秋楽の舞台

『おちょやん』千代の演技を超えた必死の叫び

 『おちょやん』(NHK総合)の脚本を手掛ける八津弘幸はTwitterで第4週を「絶望と希望の週」と紹介している。2000円にまで膨れ上がったテルヲ(トータス松本)の借金返済のために、千代(杉咲花)は嫌な噂の聞こえてくる料理屋へと奉公に行くことを決心。年季明けを迎えたのも束の間、岡安を出て行くことを決めた。つぶさには笑いの種が埋まっているものの、全体の15分では観ていてもつらい絶望の展開となった月曜日から水曜日。転じて、木曜日の第19話では、希望の光が射す物語となった。

 そのきっかけとなるのが、千代の芝居小屋での初舞台だ。客の不入りが続いていた天海天海一座の公演は鶴蔵(中村鴈治郎)の一声によって、中日で急遽千秋楽を迎えることとなった。しかも、主役である千之助(星田英利)が一座を見限っていなくなり、女形の漆原(大川良太郎)もぎっくり腰になってしまう。主役を務めることとなった一平(成田凌)が、女形の代役にと目を付けたのが、座員におにぎりを配りに来ていた本物の女中・千代だった。

 第19話では、全体の約半分の尺で千代の参加する天海天海一座の千秋楽が映し出される。千代のセリフは2カ所のみ。これだったら千代でもできるだろうと一平は想定していたのだろうが、そうは問屋が卸さない。

 まずは一平に千代がお茶を運ぶシーン。「へえ!」という返事は上ずり、両手で持つ湯呑みは緊張からガタガタと震えている。「何や、今日は身震いするほど寒いなぁ」。一平の咄嗟のアドリブも何のその、千代は湯呑みをポンッ!と一平の方にこぼし「熱っ!」。返事だけしておいたらいいと言われていた千代は「暑いんか、寒いんかどっちだす!?」と素直なツッコミを入れると、ガラガラのえびす座が爆笑に包まれる。見守っていたハナ(宮田圭子)も「面白いがな」と認めるほどだ。

 そして、舞台は終盤に差し掛かり、千代の最後の出番に。案の定、千代はセリフを忘れ苦悶の表情を浮かべる。「出てってくれ!」という一平の一言に、千代は「嫌や! うちは絶対に行きまへん!」と座り込み、台本と逆の展開へ。必死に出て行かせようとする一平に、千代は岡安を出て行くことと被り、自然と言葉が溢れ出してくる。

 「嫌や! うちはどこにも行きとうない! ずっとここにいてたい。岡安にいてたいんや! もう一人になんのは嫌や……」

 演技を超えた必死の訴えに、えびす座は静まり返り、やがて舞台を後にする千代に拍手と笑いが贈られる。涙ながらの千代の舞台に、袖で天晴(渋谷天笑)は「人生、雨のち晴れや」と声をかけた。

 カーテンコール。一座を代表した一平の挨拶を横からじっと見つめる千代。「また、必ずここに戻ってまいります。必ず」。再びの公演開催を誓う一平の言葉に、劇場は拍手喝采。支配人である熊田(西川忠志)の嬉しそうな表情が、不入りであってもそこにいた客の心に響く千秋楽になったことを物語っていた。

 そして、その拍手は千代が初めて舞台上で浴びた賞賛の音。白い歯を見せて喜びを噛み締め、涙を拭く千代の眼差しは希望に満ちていた。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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