『姉ちゃんの恋人』は何を描いたのか? 過酷な現実に抗うファンタジーの強度

『姉ちゃんの恋人』は何を描いたのか? 過酷な現実に抗うファンタジーの強度

「家の前でクラクションが鳴って、『えっ』て見ると彼が車で迎えに来てて。カップホルダーがあるじゃないですか、車に。運転席と助手席に1個ずつ。そこに私の好きなアイスラテが置いてあるんですよ(中略)で、湘南とか江の島とか鎌倉に行くんです。渋滞しても大丈夫。しりとり歌合戦します。J-POP縛りとかで。それが夢」

 この時代に奇跡が起きるとすれば、それはどんな形をしているのだろうか? 『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)は、幸福になることを諦めた人たちがもう一度幸せになろうとする物語だ。そこにあるのは、過酷な現実に抗うファンタジーの強度である。

 舞台は2020年の東京。ホームセンターで働く27歳の安達桃子(有村架純)は両親を交通事故で亡くし、女手一つで3人の弟を育ててきた。ある日、桃子はクリスマス商戦に向けた店内プロジェクトの責任者を任される。配送部門も参加した全体ミーティングで、桃子は吉岡真人(林遣都)と顔を合わせる。

 ファンタジーを成り立たせるのは想像力だ。彼氏とドライブデートに行くという、あまりにもささやかな夢。しかし、桃子にとって、その夢ははるか先にあった。両親の事故を目撃して以来、車に乗るとその光景がフラッシュバックする桃子。夢の裏側には消えない記憶が貼り付いていて、想像力は桃子を幸せにしてくれない。現実の前で想像力が挫折する図式は、真人にもあてはまる。傷害事件を起こして服役した過去を持つ真人は、自分が幸せになるという想像力を絶ち切ることで、かろうじて生きている。

 想像力あるいは幸福への願望に蓋をした2人が、互いを受け入れて進んでいくというテーマが『姉ちゃんの恋人』の根底にはある。脚本を担当したのは連続テレビ小説『ちゅらさん』、『ひよっこ』(NHK総合)の岡田惠和。悪人が出てこない“優しい”世界観は本作にも通底している。

 通常なら出会わないであろう桃子と真人。2人が出会うのがクリスマスの企画というのが象徴的だ。ホームセンターが準備するのは、誰かのためのクリスマス。毎年、弟たちにプレゼントを用意する桃子と、祝われる資格がないと思っている真人は、祝う側として時間を共有する中で互いのことを知る。幸福に向かう最初の一歩を、クリスマスという他人の幸福のための想像力を借りて踏み出すのだ。

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