2020年の年間ベスト企画

年末企画:田幸和歌子の「2020年 年間ベストドラマTOP10」 今は戻れないビフォーコロナの熱狂

 その一方で、アフターコロナの新たな価値観を提示してくれたのが『姉ちゃんの恋人』である。手指の消毒や、客がマスクを争って買っていた過去など、コロナを想起させる状況が冒頭で描かれているが、マスクをしていなかったり、家族や仲間が集ったりしている状況に対して「ありえない」「リアリティがない」と見る視聴者もいる。しかし、ここで描かれているのは、おそらくアフターコロナの現状よりちょっと先の世界だ。だからこそ、当たり前の日常がいかに大切なものかが、心にしみる。

『姉ちゃんの恋人』(c)カンテレ

 有村架純演じる「姉ちゃん」桃子は、両親を事故で亡くし、大学進学を断念、弟たちを幸せにすることを目標に、ささやかな暮らしをしている。そんな桃子が恋をする青年・吉岡(林遣都)も過去のとある事件で心に傷を負っていて、一般的な豊かさ・幸せからは程遠い、無い無い尽くしの二人だ。さらに付き合い始めた二人を、許しがたい出来事が襲う。

 傍から見ると、どこまでも不運で、可哀想な人生に思えるが、しかし、そこに悲壮感はない。悪意や暴力はなくならないし、不幸な出来事もたくさんある。そんな中、大切なもの・守りたいものがあることが、人を強くし、人生を豊かにするという、ごくシンプルで当たり前のことを、この作品は実感を伴って伝えてくれている。

 おそらくアフターコロナで、世界が以前と同じに戻ることはないだろう。ここから先はきっと自分自身のブレない軸や、自身の小さな世界、家族や友人、趣味などでつながるミニマムなコミュニティが大切になってくる時代だ。

 ベスト10には、1位を除き、そうした社会の大きな転換期にふさわしい、他者に振り回されない個々の価値観や、大切なもの、小さな世界を愛する作品を多くセレクトしてみた。テイストが極端に異なる1位と2位の作品の落差は、2020年という1年のテンションの落差ということで。

TOP10で取り上げた作品に関連するレビュー/コラム

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■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■リリース情報
『ホームルーム』
DVD-BOX発売中
価格:¥12,000(税別)
出演:山田裕貴、秋田汐梨、富田望生、横田真悠、大幡しえり、若林拓也、綱啓永
豊原江理佳、渡辺碧斗、ウメモトジンギ、青山隼、前野朋哉、山下リオ
原作:千代『ホームルーム』(講談社『コミックDAYS』連載中)
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
制作:ロボット
製作:「ホームルーム」製作委員会・MBS
発売・販売元:ポニーキャニオン
(c)「ホームルーム」製作委員会・MBS (c)千代/講談社

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