『エール』は“朝ドラ”との向き合い方を考えるきっかけに 物語を彩った“音楽”の力

『エール』で考える“朝ドラ”との向き合い方

 NHK連続テレビ小説『エール』が11月27日に終了した。

 そもそも同作の放送が発表された当初は、東日本大震災から10年の節目を目前とし、福島出身で「応援歌」を多数作った作曲家・古関裕而とその妻をモデルに、改めて東北地方へのエールを送る狙いが語られていたことを、今改めて思い出す。

 もちろん2020年に東京五輪が予定されていたことによる「応援歌」の意味もあった。“過去から現在へのエール”が本作の目指すところだったはずだ。ところが、震災の傷跡もまだまだ癒えぬ、復興も思うように進まぬうちに、次なる大きな災厄――新型コロナウイルスが日本中、さらには世界中を襲うような事態になる。そんなこと、いったい誰が想像しただろうか。

 しかも、「働き方改革」の影響により、放送日を月~土の週6本から月~金の週5本体制に短縮することを決めた矢先のこと。脚本家の交代もあったし、コロナ禍で撮影がストップ、2カ月以上の放送中断と放送回数の縮小を余儀なくされた部分もあった。しかも、目玉キャストの一人・志村けんが亡くなり、出番を減らさざるを得ない状況もあった。

 次々に起こる「想定外」だらけの事態は、当然ながら作品にも様々な影響をもたらしている。しかし、それがかえって視聴者の「朝ドラ」との向き合い方、朝ドラというもののあり方を改めて考えるきっかけにもなった気がする。

 朝ドラはというと、「健気で前向きなヒロインが、戦争などの困難を乗り越えて明るくたくましく生きていく物語」のイメージがある。しかし、本来は、日本の様々な地域の様々な「家族」を描く物語だった。それが、時代の変化とともに、女性の社会進出を一歩先の視点から描いたり、女性の生き方の変化を描いたり。脈々と紡がれていく日本の女性と家族の物語の中では、様々な「職業」の発見も、日本の「地域」の再発見もあった。

 それが、2000年代のいわゆる「低迷期」と言われる時期を経て(実は秀作が多数あるのだが)、戦争を描く昭和モノが主流になっていった。『ゲゲゲの女房』での放送時間変更の大変革を経て、『あまちゃん』(共にNHK総合)からの男性を含めた新規視聴者の流入も経て、朝ドラに「ドラマとしての完成度」「情報量の多さ」を求める層が増えていった。さらに、近年はSNSの浸透もあり、SNSで話題になるゲストキャラや演出などをこまめに「投下」するケースも多かくなっていった。

 サービス満点の様々な仕掛けは、しかし、ある種、成熟期ゆえの息苦しさを感じさせる部分もないわけではない。そんな中、『エール』は第一話で原始時代からの「音楽」と人間の関わりをコミカルに描き、賛否両論分かれる大きな衝撃を与えた。

 主人公・裕一の才能をいち早く見出して応援してくれる恩師・藤堂(森山直太朗)との出会いや、初めて送られた「音楽」というエール、ヒロイン・音(二階堂ふみ)との運命的な出会いがあったかと思えば、「三羽ガラス」の別れや再会・友情があり。

 裕一の父・三郎(唐沢寿明)の死を丁寧に描いたかと思えば、コント週あり。さらには、太平洋戦争史上「最も無謀」と言われたインパール作戦の行われるビルマ(現ミャンマー)に慰問に向かい、目の当たりにした戦争の凄惨さを描いたこと、主人公が「音楽」を通して戦争に加担してきた負の側面を描いたことも、朝ドラの歴史上、意義のある大きなチャレンジだった。

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