三浦春馬さんの好演も見逃せない 『こんな夜更けにバナナかよ』が現代社会に伝えるメッセージ
劇中の言葉を引用すれば、「生きるってのは迷惑を掛け合うこと」「人間できることよりもできないことの方が多い」。できないことは勇気を持って誰かに頼ればいいし、誰かに助けを求められたときに応えられるならば応えればいい。少なからず現代社会では、いかに他人に迷惑をかけずに生きていくかばかりが求められ、自身に限らず他者にもそれを強制しようとするきらいがあるように思えてならない。それどころから前述した“自己責任”しかり、共助や公助よりも自助に著しく比重を置く価値観であったり、誰もが気を張りながら生きている一方で弱者だの強者だのと勝手に定義して自分と異なる立場の人間を平然と切り捨てていったりと、人間関係なるもののすごく当たり前のことがなぜか蔑ろにされてしまっている。とくにこの数カ月間はそれが顕著になっていると感じることばかりだ。
閑話休題、つまりこの映画で描かれている“人間ドラマ”に何も特別なことはないのである。たしかに鹿野は障がい者と括られてしまう立場にある以上、社会的には“弱者”に当たるのかもしれないが、それはあくまでも相対的なものに過ぎない。夢を持ち続け人を惹きつけることができる彼は誰かの希望になることができる。一方で、鹿野を支え続ける美咲は嘘で自分を取り繕いながら生きていたり、田中は将来や親との軋轢に苦悩しながら人生を模索していくなど、誰もがそれぞれの弱さや脆さを抱えて生きていることに違いはない。それを誰かにさらけ出しながら、できる範囲で誰かの支えになろうとしていくことは、理想的な共助のかたちではないだろうか。「完璧な人間なんていない」というビリー・ワイルダーの映画の台詞が頭の中を何度もよぎっていく。
そしてやはり、この映画を語る上で触れないわけにはいかないのは、田中役を演じる三浦春馬の存在だ。終盤で描かれる明け方の美瑛のシーンにおける彼の語る台詞のひとつひとつが、公開当時に観たときと今ではまったく違う言葉に聞こえてきてしまうのは、もう避けては通れないことだ。ただどの作品を観ても変わらない、三浦のくしゃっとした笑顔と凛としたたたずまいはこの映画にも間違いなく記録されていることは明記しておきたい。こんなにも素晴らしい役者がいたことを、決して忘れてなるものか。この数カ月間何度も思ったことだが、改めてそう思える好演であった。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■放送情報
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
日本テレビ系にて、12月4日(金)21:00〜22:54放送(※地上波初放送)
出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、渡辺真起子、宇野祥平、韓英恵、竜雷太、綾戸智恵、佐藤浩市、原田美枝子
監督:前田哲
脚本:橋本裕志
原作:渡辺一史『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(文春文庫刊)
配給:松竹
(c)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会