『エール』コンサートは納得の最終回に 実現した裕一と音の“夢のつづき”

 薬師丸ひろ子が歌う「高原列車は行く」の前には、裕一のアシスタントとして浩二役の佐久本宝と吟役の松井玲奈も登場。豪華なセットと演出が相まって、コンサートはさながら紅白歌合戦のよう。薬師丸は光子として第18週「戦場の歌」で賛美歌を披露したが、その澄み渡る歌声は戦時中の悲惨なシーンが続き、ぽっかりと穴が空いた視聴者の心を癒してくれた。後半に連れ、音がどんどんキュートで頼りになる光子に似てきたのも印象的だった。

 最後の2曲「栄冠は君に輝く」と「長崎の鐘」は、裕一が戦後に作った曲。自ら戦地に赴き、死にゆく人々を目撃した裕一はしばらく音楽と向き合うことができなかった。それでも池田(北村有起哉)や、長崎で永田武(吉岡秀隆)と出会い、自らの使命は「音楽で人を勇気づけること」だと気づいた裕一。それは『エール』というタイトルに込められたメッセージでもあるだろう。

 森山と山崎が弾き語りで歌う「栄冠は君に輝く」は、古関裕而が未来ある若者に捧げた曲。甲子園で勝った人だけではなく、残念ながら負けた人の気持ちにも寄り添う。100話で裕一が久志に言った「どん底まで落ちた僕たちにしか伝えられないものがあるって信じてる」という台詞が思い起こされる。『エール』も新型コロナウイルス感染拡大による撮影・放送休止や、小山田耕三を演じる志村けんさんの急死など、様々な困難に見舞われた。しかし、だからこそ、作品を通して視聴者に“エール”を送りたいという気持ちが台詞や演出からも伝わってきた。

 「長崎の鐘」は窪田が指揮をとり、二階堂が歌う。裕一と音が大きなNHKホールの舞台に立っている。それは2人が見た“夢のつづき”を叶える瞬間を見届けているようだった。2番からはコンサートの出演者が全員集合し、みんなで平和へのメッセージが込められた同曲を合唱。裕一と音、そして周りを山あり谷ありだった2人の人生を共に歩いた人たちが囲んでいる。『エール』は音楽と向き合い、絆を深めた裕一と音の夫婦の物語であり、それを支え、一緒に生きた人たちの物語だった。

「苦難の日々が続きますが、皆様どうか“一緒に”頑張りましょう」

 締め括りの言葉でさえ、本当に『エール』らしい。苦い出来事もたくさん訪れた2020年、どれだけの人が毎朝救われただろう。古関裕而の名曲が現代まで受け継がれてきたように、前代未聞の最終回で幕を閉じた『エール』もまた、みんなの心に残り続けるはずだ。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

関連記事