窪田正孝×二階堂ふみは“月と太陽”のようだった 『エール』は出会いの素晴らしさを描いた物語に
まるで美しいエピローグのようだと、実質の最終回『エール』(NHK総合)第119話を観てそう思った。
最終週「エール」は、華(古川琴音)とアキラ(宮沢氷魚)の結婚にはじまり、第1話にリンクする東京オリンピックの開会式の入場行進曲「オリンピック・マーチ」の作曲、そして16年後に裕一(窪田正孝)が乳がんを患い闘病生活を送る音(二階堂ふみ)との余生が描かれる。
耳を澄ませば、さざ波の音すらも聞こえてきそうなくらいにゆっくりと静かな時が流れていく第119話。その見どころとなるのは2つ。まずは裕一の回想によって明らかになる、生前に小山田(志村けん)が秘めていた思いだ。
東京オリンピックから1カ月後、裕一は小山田が亡くなる3日前に綴った手紙を付き人の猿橋(川島潤哉)から受け取っていた。そこに書かれていたのは、「オリンピック・マーチ」を作曲した裕一への最大の賛辞と後悔の念。焦り、嫉妬。裕一の才能を羨ましく思うあまりに、己のエゴから彼に冷たく接していた小山田。2人はすれ違ったままであったが、小山田は裕一が映画、ドラマ、そしてオリンピックと素晴らしい音楽を作曲し続けていることに同志として誇りに思っていた。「今度は語り合いたい。私は先に逝く。こちらに来たら声をかけてくれ」。文末の小山田の言葉に、裕一は猿橋を通して「天国でお話しできるのが楽しみです」「音楽の話を一晩中語り尽くします」と感謝の意を述べる。
ここでインサートされるのが、ニカッと笑う志村けんさんの笑顔。チーフ演出の吉田照幸によれば、これはたまたま撮っていたオフショットを使用したもの。劇中にて唯一小山田が見せた笑みであり、我々が愛したあの志村さんの表情だ。製作陣の作品への並々ならぬ熱い思いが伝わってくるとともに、涙をこらえた窪田正孝の真っ直ぐな表情も役柄を越えた感情を覗かせた。
そして、もう一つが裕一と音の夫婦の結末だ。ベッドに横たわる音が口ずさむのは「晩秋の頃」。裕一が歌い手である音のために初めて作曲した亡き父・安隆(光石研)を思った曲。演奏会の後に、父が眠る豊橋の海岸で歌ったこともあった。「海が見たい。歌を歌いたい」。音のか細い囁きに応えるように、裕一は音に寄り添いながら一歩一歩、あの頃の海岸へと駆けていく。