『チェリまほ』はなぜ“安心感”と“ドキドキ”が同居する? 回を追うごとに切ない安達と黒沢の心模様

 このドラマでは、黒沢がいくら心の中では、ひとりよがりな欲望を募らせていたとしても、決してそれを安達に直接的に向けたり、無理強いをしたりは絶対にしない。王様ゲームでキスさせられそうになったときにも、黒沢は「あんな形で安達に触れたってうれしくない」と感じているし、「そりゃそうだよな、やっぱり……」「嫌だよな男となんて」という気持ちも抱いている。

 そこには、現実で黒沢のように同性に好意を寄せる人たちが感じる苦悩も、好意を寄せたことで相手が感じてしまう可能性のある恐怖や、そこに芽生えてしまうかもしれない差別的な構造(ホモフォビア)を無視せず、非常に丁寧に描いてあるのだと感じる。

 それと同時に、黒沢の言う台詞のように「ゆっくり、じっくり」ふたりの気持ちを追うことは、当たり前であるべきなのに、これまでは難しかったようにも思う。

 例えば、恋愛ドラマでは、BLを描いた作品に限らず、無理やりキスをするシーンなども多く、もちろんそれが文脈によって、すべて描いてはいけないとは言えないし、それは非常に難しいところではあるが(例えば、無理やりのキスはいけないという価値観を見せるために描く場合や、無理やりに見えて、実はキスされる側の心の声や演出によって、相手にも同様の気持ちがあるとわかる場合などがそれである)、黒沢は安達が本当に自分とキスしたいと思っているとき(第3話ではキス寸前のシーンがあるが、それは安達が「嫌じゃなかったよ、お前のキス」と告げたからである)でないとキスをしないだろうという絶対的な線引きがある。だからこそ、視聴者は安心感を持ってこのドラマを観ることができるのではないか。

 しかし、フィクションの中の「安心感」と「ドキドキ」は本来なら相反するものであるはずなのに、このドラマを観ていると、相手の気持ちを繊細に思うからこそ、恋愛ドラマ特有のすれ違いが起こったりするし、相手を思う気持ちにこそ、最大のドキドキが宿るものなのだと気づかせてくれる。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
木ドラ25『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』
テレビ東京ほかにて、毎週木曜深夜1:00〜1:30放送
BSテレ東/BSテレ東4Kにて、毎週火曜深夜0:00〜0:30放送
※放送日時は変更になる可能性あり
出演:赤楚衛二、浅⾹航⼤、ゆうたろう、草川拓弥(超特急)、佐藤玲、鈴之助、町田啓太
原作:豊田悠(掲載『ガンガンpixiv』スクウェア・エニックス刊)
オープニングテーマ:Omoinotake「産声」(NEON RECORDS)
エンディングテーマ:DEEP SQUAD「Good Love Your Love」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
監督:風間太樹、湯浅弘章、林雅貴
脚本:吉田恵里香、おかざきさとこ
プロデューサー:本間かなみ(テレビ東京)、井原梓(テレビ東京)、熊谷理恵(大映テレビ)
制作:テレビ東京 大映テレビ
製作著作:「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
(c)豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/cherimaho/
公式Twitter:https://twitter.com/tx_cherimaho

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