仲野太賀が2020年引っ張りだこの理由 『恋あた』などで視聴者を引き込む“溜め”の演技

 これまでの名バイプレイヤーの印象から、今年に入ってから主演作の放送・公開が相次ぐ仲野太賀。主演映画は『静かな雨』、現在公開中の『生きちゃった』、間も無く公開予定の『泣く子はいねぇが』と3本続き、それ以外にも『今日から俺は!!劇場版』『MOTHER マザー』と、出演作は枚挙にいとまがない。

『あのコの夢を見たんです。』(c)「あのコの夢を見たんです。」製作委員会

 ドラマでも『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)で主役を演じ、これまであまり馴染みのなかった恋愛ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系、以後『恋あた』)への出演で注目を集めている。

 一見したところの彼の印象は、朴訥、素朴、ひょうひょうとしている、落ち着いている、安定感、安心感があると言ったところだろうか。主役と言えどどこにでもいそうな、冴えなくて不器用で情けない名もなき男を演じることが多く、ストーリー中でもなんだか苦悩しがちだ。

 ただ不思議でならないのが、このワードの並びからは普通連想されないような「掴みどころのなさ」が彼にはあり、とてつもない「吸引力」があるのだ。「正統派・王道」か「個性派・演技派」かで言えば確実に後者に違いないが、「キワモノ」ともまた全く違う独自ポジションを築けているのが仲野太賀が他の誰とも被らない所以だろう。彼が演じているのはいつだって「キャラクター」ではなく、そこに息づく「人の営み」なのだ。それゆえ通常、見どころにはなりづらい「溜め」「受け」の期間にどんどん観る者を引き込んで離さない。

『生きちゃった』(c)B2B, A LOVE SUPREME & COPYRIGHT @HEAVEN PICTURES All Rights Reserved

 映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』や『生きちゃった』での役どころが象徴的だ。前者では、一見したところ順風満帆な生活を送る青年ながら、実は大好きな母親から拒絶され続け、壮絶な人生を送ってきたタイジという難役を圧倒的な演技力で熱演した。後者では、妻の不貞現場に遭遇しながらも本音を伝えられない厚久役を演じるが、両作ともに言えるのが「素朴」だが「屈託がない」ともまた違う、「言葉少な」だが「寡黙」ではない、「何かを諦めて手放している」けれど「絶望しきっている」のではない、「情けない」んだけれど「腐り切っている」訳ではない……そんな“生々しい”存在のいたたまれなさをそのまま宿して見せてくれる。

 この感情のグラデーション、いっそ振り切れられたら楽なのにどちらにも偏り切れない感情のスイング、矛盾を同居させる二面性、流動的な「生モノ」で捉えようのない心の渦き、機微こそが「嘘のない」リアルな「生」を生んでいるのだろう。引き込んで引き込んで、その後ぶつけてくれる感情の結露はもう圧巻で、徐々に泣かせるのではなく、役柄と同じように観客の心の高まりの照準を合わせられるのがお見事である。『生きちゃった』でもそれまで全く泣く予兆を感じさせずに、ラストシーンにいきなり涙を吹きこぼさせてくるんだから、一瞬何が起きたかこちらもわからなくなったくらいだ。

 それゆえ、そんな彼にかかれば振り切れた役どころは朝飯前なのだろう。コメディー要素満載の役柄ももちろんフィットする。映画『50回目のファーストキス』では、主演の山田孝之にムロツヨシ、佐藤二朗と強烈な個性の塊の中に放り込まれても全く存在感が霞まない。むしろその強者の中にあって観賞後にありありと彼の姿が思い出せるのだから、とんでもない。

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