理想は海外ドラマとして世界配信? 『鬼滅の刃』実写化の可能性と問題点

 次に監督だが、漫画を実写映像化する際に一番難しいのは原作漫画の要素をどれだけ残すかだ。表現を漫画に寄せすぎるとコスプレ感が強くなってしまうし、逆にリアルに寄せすぎると、全く違う作品になってしまう。

 その意味で絶妙なのが、前述した『るろうに剣心』の大友啓史監督だろう。『キングダム』の佐藤信介監督や、『無限の住人』の三池崇史監督も(作品によって、そのバランスは大きく変化するものの)漫画原作をリアル寄りに仕上げるのがとてもうまい。

 おそらくリアルと漫画の割合は「8:2」ぐらいが丁度いいのだろう。その意味でも、この3人が最有力候補だ。一方、漫画のリズムや映像表現を実写の中に果敢に取り込こもうと模索しているのが『賭ケグルイ』や『映像研には手を出すな!』を手掛ける英勉監督だ。そのアプローチはリアルとも完コピとも違う独自のもので、漫画の実写版を撮らせたら今、一番面白い監督だろう。大友、佐藤、三池は、時代モノのアクションという意味では適任だと思うが、個人的には英勉が撮った『鬼滅の刃』が観てみたい。

 最後に暴力描写の問題だが、実はこれが一番のネックかもしれない。日本の漫画は10代の少年少女が戦うものが多くバイオレンスの要素が強い。アニメや漫画といった絵で表現されている時は許容できるが、生身の俳優で展開されると生々しすぎて、受け付けられないという視聴者も少なくない。

 『るろうに剣心』は主人公の剣心が20代後半の青年で「不殺」という作品のテーマと、アクション監督の谷垣健治が演出するアクロバティックな殺陣との相性が良かったため、この問題をうまく避けることができた。

 対して『鬼滅の刃』は、作品の性質上、鬼の「首を切り落とす」シーンを避けて通ることができない。今回の『無限列車編』のレイティングは「PG12」だったが、これが「R15+」、「R18+」になってしまうと、興行にも大きな影響が出てしまう。

 これはドラマ化した際にも直面する問題だ。おそらくジャンプサイドは、原作第一主義を貫くだろう。だとすると、NHKや民放各局では放送が難しい。

 そう考えると、やはりストリーミングの有料動画配信サービスだろうか。すでにNetflixでは『ONE PIECE』、Amazonプライム・ビデオでは『約束のネバーランド』といったジャンプ作品の実写ドラマ化プロジェクトが進行している。

 ジャンプの人気は海外でも高いため、海外ドラマとして世界配信するのが理想だろう。空前絶後の大ヒット作だからこそ、次は世界を狙ってほしい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

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