Netflix『アグレッシブ烈子』の真価はヒロイン像にあり 新シーズンでも描かれる20代のリアルな現実
シーズン3は若年層の貧困と“本当になりたい自分”がテーマ
さて、そんな烈子もシーズン3になると新たな問題に差し掛かる。それは彼女がシーズン2でイケメンIT社長と別れたのをきっかけにハマったVR恋愛ゲームへの課金沼、それによる赤貧生活だ。この演出も現代の若者の世情が反映されているように思う。リクルートブライダル総研「恋愛・結婚調査2019」によると、これまで一度も交際経験のない20代女性は22.6%、男性は39.5%の割合でいる。もちろんアセクシャルも中に含まれると思うが、そもそも烈子のハマったVR彼氏(および彼女)系のゲームはすでに存在しているし、AVだってVRものが主流になりつつある(海外では女性主観のものも多く作られている)。
そこに加え、2012年〜2015年の間ではあるが、厚生労働省の国民生活基礎調査のデータによれば、20〜64歳の単身女性は約29〜33%、3人に1人が貧困なのだという(男性は約20%)(参照:パート1 相対的貧困率の動向:2012-15_201811公表|厚生労働省『国民生活基礎調査』を用いた貧困率の推計)。烈子は一流商社の経理部で働いているにも関わらず、ほとんどの給料をゲーム課金に注ぎ込み、積んでしまう。貯蓄額もそこまでなかったのが印象的だったが、彼女は将来性が見えない付き合いや不確定的な恋愛に交際費をつぎ込むのではなく、絶対的に自分に甘い言葉をかけてくれる仮想現実に課金することを選んだのだ。ぶっちゃけ、シーズン3はスタートがすでに超シビア。
それなのに交通事故を起こしてしまい、借金をする烈子。それから副業YouTubeを初めてみたり、覆面で地下アイドルデビューを果たしたり、これまた今っぽい展開になっていく。
そして今シーズンでは彼女のチームメンバーとなるセンターのマナカなど、主体性の強いキャラが登場することで、彼女自身のそれも問われる場面が多い。より、「あなたはどうしたいの?」と聞かれる烈子は頭を抱えることになるのだが、そんな彼女に会社の先輩の鷲美のかける言葉がいい。
「わからないんじゃなくて、考えるの諦めちゃっているだけでしょ」
そして、彼女は初めて自分の持つ経理としてのスキルを伸ばし、それを生かして仕事をすることの楽しみを覚える。それだけでなく、ついに自分のデスボイスを生かしたアイドル活動をはじめ、「アグレッシブ烈子」が爆譚するシーズン3。自分にこんなことができると思わなかった、と自身の可能性を広げるわけだが、同時に居場所を見失い、今まで以上に周りに心を閉ざすことも。周りの人間がそんな彼女を過剰評価するわけでもなく、ダメな部分をしっかり理解した上でサポートしていく姿にも心打たれる。
お決まりの恋愛パートも、今シーズンは以前に比べてリアルな内容に。烈子に5年も実らない片思いをしていた灰田くんが、遂に同じ会社で趣味の合う良い子と出会うも、烈子から連絡がくることで迷う。付き合うまでのグレーな関係性や、どこまでが二人を追うのを許されるタイミングなのか。普段ゆるキャラやアニメに興味のないリアリストにこそ観てほしい本アニメだが、シーズン3はそういった灰田目線の恋愛も描かれているので、男性にも是非おすすめしたい。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。Instagram/Twitter
■配信情報
Netflixオリジナルアニメシリーズ『アグレッシブ烈子』シーズン3
Netflixにて全世界独占配信中
(c)2015, 2020 SANRIO サンリオ/TBS・ファンワークス
作品ページ:www.netflix.com/aggretsuko