『彼女が成仏できない理由』が描く“歩み寄ることの大切さ” 女優・高城れにの代表作に

 最初は互いに警戒し合っていた彼らは、回を重ねるにつれて渾然一体となっていく。そこはまるで、銭湯がイメージさせる「極楽」の世界。「自分が誰なのか知りたい」という幽霊の悩みは、生者である、漫画家を夢見る「まだ何者でもない」エーミンの悩みにも繋がり、「死ぬのが怖い」という少女(白鳥玉季)の悩みは、かつて子供だった大人たち全員の悩みに繋がる。

 それぞれが各々の殻の中に閉じこもっているが、互いに話を聞いてみれば、実は似たようなことで悩んでいたということがわかってくる。誰もが孤独に自分の作り上げた世界の中で必死にもがいて生きている。だが、「皆冷たい海で泳いでいても、独りぼっちじゃない」のである。

 第5話において、ちゃぶ台を移動さえすればどこにでも行けることが分かった「ちゃぶ台を中心とした半径3メートルの中に存在できる」幽霊の玲。アパートの一室に制限されていた2人の恋物語はそれによって無限に広がり、本当の海に辿りついた。アパートの一室という小宇宙の中心だった、不動のはずのちゃぶ台が動き、謎の男の自転車の車輪が、意味ありげにクルクルと回り、物語は回転し、遂に隠された謎が明らかにされようとしている。

 第1話からずっとミステリアスな雰囲気を醸し出している、古舘寛治演じる男が、玲の死の謎を解く鍵を握っていることは間違いないだろう。彼が放つ、これまでとは異質の、まるでSFか人造人間ものかといった雰囲気に戸惑わずにはいられない。人間と幽霊の境目がわからなくなるほど一緒に過ごしたエーミンと玲に、幸せなハッピーエンドは訪れるのだろうか。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
よるドラ『彼女が成仏できない理由』
NHK総合にて、毎週土曜 23:30〜23:59放送【全6回】
出演:森崎ウィン、高城れに(ももいろクローバーZ)、和田正人、村上穂乃佳、中島広稀、 白鳥玉季、高橋努、ブラザートム、古舘寛治ほか
作:桑原亮子
制作統括:三鬼一希
プロデューサー:増田靜雄
音楽:トクマルシューゴ、王舟
演出:堀内裕介、新田真三
写真提供=NHK

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