異世界転生ものの変化球!? 遊川和彦脚本『35歳の少女』は『家政婦のミタ』を超えるか?
『眠れる森の美女(眠り姫)』や『シンデレラ』がヒロインと王子の結婚で終わる「幸せなおとぎ話」なら、バッドエンディングの『マッチ売りの少女』や『人魚姫』は「不幸なおとぎ話」だ。そして、このドラマはそのどちらのパターンになるのか予想できない。10月10日に始まる新ドラマ『35歳の少女』(日本テレビ系)では、1995年に10歳だった少女が自転車事故で意識不明に。25年間、病院のベッドでこんこんと眠り続け、35歳の誕生日に目覚める。そんな数奇な運命をたどった35歳の望美を演じるのが柴咲コウだ。
25年ぶりに意識を取り戻すなんて、こんなことが実際にあるのだろうか?と思い調べてみると、去年「UAEで昏睡状態だった女性が27年ぶりに目覚めた」というニュースが報道されている(参考:昏睡状態のUAE女性、27年ぶりに目覚める - BBCニュース)。つまり、現実にもなくはないのだろうが、やはりこの特殊なシチュエーションをわがことのように想像することは難しい。キャッチフレーズに「眠り姫」という言葉があるように、医療の発達した現代ならではのおとぎ話として観るしかないだろう。
10歳の望美にとって、美しく優しい母(鈴木保奈美)、仕事のできるかっこいい父(田中哲司)、生意気だけれどかわいい妹(橋本愛)との暮らしは幸せそのものだった。小学校には初恋の相手・結人(坂口健太郎)もいて、将来の夢はアナウンサーになることだった。きっと未来は輝いて見えていただろう。しかし、目覚めたとき、自分の外見は35歳で、もう若くはなくなっていた。それなのに自分は同世代が通ってきた受験、就職、恋愛などをまったく経験していない。これはかなり絶望的な状況である。そして、心の支えになるはずの両親も離婚していて。父親には新しい妻子ができ、家族はバラバラになっていた。
心はまだ10歳の望美にとってはたいへんな状況だが、ドラマの受け手としては正直、もうこのぐらいでは驚かなくなっている。なぜならこれは脚本家・遊川和彦による新作で、遊川はこれまでもヒロインに過酷な試練を課してきたからだ。前作『同期のサクラ』(日本テレビ系)でもサクラ(高畑充希)は会社にいられなくなった上、頭を打って昏睡状態に陥っていたし、5年前に柴咲と組んだ『○○妻』(日本テレビ系)でも、ただでさえ過酷な過去を背負う妻(柴咲コウ)が最後には頭を打ってバッドエンディングとなった。大ヒット作『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の終わり方は「幸せなおとぎ話」に入るかもしれないが、謎の家政婦ミタ(松嶋菜々子)の背負う過去が美しすぎたゆえに、毒親、セクハラ、ストーカーなどに人生をめちゃくちゃにされたという、これ以上はないほどヘビーな設定だったので、印象としては辛さが勝る。ラブコメ路線の『過保護のカホコ』(日本テレビ系)などもあるが、観ていると「もうやめて!ヒロインのライフはゼロよ」と言いたくなる。それが遊川作品なのである。
遊川作品における「昏睡状態」とは何を意味するのだろうと考えると、望美のような不可抗力によるアクシデントである場合と(NHK連続テレビ小説『純と愛』の愛も病気だった)、『同期のサクラ』『○○妻』のような“辛すぎる現実から無意識に自分をシャットダウンする”パターンの2つがあるようだ。目覚めたばかりの望美にはシャットダウンとして意識不明になるという展開はできないだろうから、たいへんな現実をひとつひとつ理解して、乗り越えていく展開になるのではないか。その先にハッピーエンディングが待っている可能性もある。