三浦春馬さんへの愛を語った登場人物たち 奇跡の最終回となった『おカネの切れ目が恋のはじまり』

 「現実とフィクションを区別しろ」と言われても、今回ばかりは無理な話だ。10月6日に放送された『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)の最終回は、フィクションを描くドラマとして設定に沿い物語を着地させると同時に、撮影途中で亡くなってしまった三浦春馬という俳優への追悼番組にもなっていた。かつ、リアルタイムで視聴した人にも追悼と愛惜の気持ちが自然と生まれてきてそれが昇華されるという、ドラマ史に残る伝説の回になったのではないかと思う。

 おもちゃメーカーの経理部に勤めるしっかり者の玲子(松岡茉優)とそこに異動してきた社長の長男・慶太(三浦春馬)の恋を描いてきたこのドラマ。玲子は慶太が息をするように金を使う様子にあきれつつも、彼の面倒を見て金銭感覚をまともにしようとする。慶太は鎌倉で民宿を営む玲子の自宅に引っ越してきて、玲子がテレビで人気を集める公認会計士の早乙女(三浦翔平)に15年間思いを寄せていることを知るが、早乙女には実は公表していない妻子があった。早乙女との初デートの日、それを知った玲子はショックを受けつつも長い片思いにピリオドを打つ決意をし、慶太はそんな彼女を慰めながら思わずキスをしてしまう。それが第3話までのストーリーだった。

 スタート時、このドラマを「三浦春馬の遺作」だと思い、号泣する準備はできているとばかりにハンカチを握りしめて見始めた人は、ハッピーでコミカルな世界観とキャストの好演に引き込まれ、いつの間にかこれまでの火曜ドラマと変わらない気持ちで物語を楽しんできたはずだ。それは第3話のラスト、まだこれが恋だとは意識していない玲子と慶太がキスをしてしまう場面で最高潮に達した。これぞラブコメ、これぞTBSの火曜ドラマ。すっかり安心して迎えた最終回は、彼の不在を改めて知らしめるものになっていた。

 玲子にキスをした慶太は、翌朝、布団の中で目覚め「昨夜は失敗した……」というような後悔の表情を見せ、玲子の家から姿を消してしまう。書き置きも電話連絡もない。玲子は傷ついたはずだが、いつもどおり出社。同僚たちから慶太のことを聞かれ「無断欠席です」と冷静に告げる。同僚たちは慶太について「いないとさびしい」などと言う。家に帰ると早乙女が謝罪にやってきて、慶太のことを尋ね、玲子が「今朝どこかに出かけたきり帰ってきていません」と言うと「自由なやつだなぁ」と苦笑する。これは当初から書かれていた展開なのか、それとも変更した部分なのか。そう思いながら見続けるうちに、玲子は伊豆にショートトリップすることになり、お供に慶太のペットロボットを連れていく。そこに慶太の後輩であり玲子に思いを寄せる板垣(北村匠海)もついてくる。もしかして、ここで伊豆に一緒に行くのは慶太だったのでは? そして、玲子は伊豆で行方知れずの父親(石丸幹二)と再会し、父の過ちを許し、自分も父に無理をさせていたことを謝って、過去を清算する。その頃、玲子の家には慶太の父(草刈正雄)と母(キムラ緑子)がやってきて、留守中の息子の部屋に入り、慶太について語り合う。「あいつは人を笑顔にする才能を生まれたときから持っていた」「あいつは責任など背負わんほうが輝ける」「あいつはあいつのままでいい」とふだん会社では厳しく接している父は息子に対する愛情を吐露する。これまでも甘々だった母親は、慶太が出しっぱなしにしたジャケットをハンガーにかけてこう言う。「ママはいつだって慶ちゃんの一番のファンだからね」。

 誰もが姿を見せない慶太への愛を語る。しかし、慶太の映像は回想シーンとして流れるのみ。この段階で視聴者は、もうこれ以上、三浦春馬の未放送カットはないのだと察する。では、ドラマの中でも慶太はもう帰って来ないのか。板垣が言っていた「(慶太は)すぐヘラっと笑ってひょっこり帰ってきますから」が伏線だと信じたい。ラスト前、玲子は家の縁側に座って、ロボットを相手に語りかける。「正直、腹も立っていますよ。心配するじゃないですか。どこかでひとり、1円もなくなって帰れなくなっているんじゃないかとか」と。そして、慶太がいないとさびしいと感じる自分の恋心に気づく。

 キャラクターの慶太に向けているとも、三浦春馬本人に語りかけているとも取れるセリフの数々。深読みかもしれないが、筆者の心を最も打ったのは慶太の父親が玲子に言ったセリフだった。

「あいつはあなたが好きなんだよ。(中略)彼女(妻)がいると楽しい。あいつにもそういう誰かがそばにいてくれたらと思う」

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