9年ぶりの新刊発売も大きな話題に 『涼宮ハルヒの憂鬱』の社会現象を振り返る
草木も眠りについた深夜に目を覚まし、眠い目を擦りテレビをつける。軽快なOPの後に、学園生活で最大のハレの日である学園祭にも関わらず、どこか所在なさげにうろつきまわるキョンの姿を見つめる。ライブ会場でうたた寝をするキョンにつられるように、テレビのこちら側でも少しうとうとし始めた頃、バニーガール姿のハルヒが舞台上に登場して目を覚ます。そして、始まる「God knows…」のライブシーンの衝撃は、身体中に電流が走るようだった。世界が変わっていくことを肌で感じた瞬間だった。
2003年に角川スニーカー文庫から発売され、2006年に京都アニメーションによりテレビアニメ化も果たした『涼宮ハルヒの憂鬱』は、2000年代最大のヒットを記録したといっても過言ではない、時代を象徴する作品だ。先日、シリーズ9年半ぶりの新作である『涼宮ハルヒの直観』の発売が発表された際も大きな話題となり、今でも衰えない人気を誇っていることを証明した。
ハルヒブーム前後で変化したアニメ文化はいくつかあるが、その1つがファンとアニメ作品の関わり方だろう。2006年ごろはインターネットも一般化し、ニコニコ動画がサービスを開始し、注目を集め始めていた頃だった。それまではアニメ作品を観た後には友人と会話する、あるいはネット掲示板に書き込む、同人誌を書くなどの楽しみ方が多かった。しかしニコニコ動画の登場により、「歌ってみた」「踊ってみた」などの動画が流行することで、より不特定多数の人と作品の楽しさや、好きを共有することができるようになった。
ハルヒは「踊ってみた」の文化にも大きな貢献を果たした。EDテーマの「ハレ晴れユカイ」に合わせてダンスを披露し、中には大人数で動画を撮影することで、アニメの楽しみ方が拡大した。筆者も友人たちが男子校の文化祭で、女装をしてハルヒダンスを踊ったという話を(しかも一校だけではなく、複数の学校で同じことをしていた!)聞き、当時はバカバカしいノリに笑ったものだが、今にして思えばそこまでの影響力に驚くことだったのではないだろうか。これの踊ってみたの文化は、日本のみならず、世界でも拡散されていくことになる。そして2020年でも新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下において、平野綾や杉田智和などの主演声優が自宅で踊ってみた動画をアップしたところ、大きな注目を浴びた。ハルヒダンスは十数年経た今でも有効なコンテンツであり、踊ってみたが定着した文化であることが証明されている。