福島三羽ガラス、活動休止 『エール』日常を変えてしまった戦争の力
昭和16年、太平洋戦争が勃発。世の中の戦時色がさらに深まろうとしていた時代。NHKの連続テレビ小説『エール』が第16週の初日を迎え、裕一(窪田正孝)、鉄男(中村蒼)、久志(山崎育三郎)の3人は、確かな約束などできない戦時下で再び再会できることを信じ、福島三羽ガラスの活動を休止した。
開戦後、裕一は戦時歌謡のほか、ニュース歌謡と呼ばれる、戦果を伝えるために生放送の歌の仕事にも関わるようになっていた。裕一は戦時歌謡の第一人者として数多くの作品を作り上げる。これまで裕一は人の心に寄り添うような曲を作り続けてきたが、戦時歌謡もまた、同じ思いから作品を作り上げている。戦況を伝えられたときの「すごいじゃないですか!」という反応や、軍から戦局を聞き「先生、腕が鳴るでしょう」と言われたときの「いや、恐れ多いです。頑張らないと」という台詞。その姿からは、ひたむきに戦時歌謡と向き合う裕一の姿勢が伝わってきた。とはいえ、視聴者はあの時代に何が起きていたのかを知っている。実直に作品を作り続ける姿と画面に映し出された作品の数々に、視聴者はなんとも言えない気持ちを抱いたことだろう。
そんな中、久志に召集令状が届いた。
「壮行会なんてやらなくていいから」と電話で伝えてきた久志に、裕一と鉄男が「やれってことだよな」と話すシーンや、壮行会に意気揚々と現れた久志がずっこけるシーンなどはコミカルで面白い。だが、送り出す側ではなく送り出される側の久志が歌を歌うシーンから、徐々に不穏な空気が漂い始める。歌い終えた久志に送られるまばらな拍手。「お国のために、力を尽くしてまいります」と敬礼をする久志に、深々とお辞儀をする保(野間口徹)と恵(仲里依紗)、音(二階堂ふみ)と華(根本真陽)、裕一と鉄男。彼らが一同に会するとき、普段なら和気あいあいとするはずなのに、このシーンには緊張感が漂っていた。目を見開き、敬礼を続ける山崎の表情が印象に残る。
結局のところ、久志は痔が原因で即日帰郷となる。シリアスな雰囲気から一転、痔を連呼されて気まずそうな久志という今作らしいコミカルさに落ち着いたことに、驚きつつも安心感を抱いた。だが、久志は福島に帰郷し慰問活動、鉄男は新聞記者の仕事に戻るなど、福島三羽ガラスの活動が休止になる、すなわち、3人で音楽ができなくなることが、日常を変えてしまった戦争の力を感じさせる。
久志のくだりのように、所々で笑えるシーンが組み込まれることが期待されるが、今後も重い雰囲気の物語が続くことだろう。戦争に対する当時の人々の思いを見届けたい。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/