中村倫也の演技力が浮き彫りに 『人数の町』『水曜日が消えた』にみる“主役としての在り方”

 一方、先に公開された中村の主演作『水曜日が消えた』は、完全に“中村倫也劇場”であった。“主人公である男性の人格が曜日ごとに入れ替わる”という物語の主軸は、主演を務めた中村に依拠するものが大きかった。その声や身体の扱い方によって、異なる人格同士の差異をどこまで生み出せるのかーー。中村演じる青年にフォーカスした同作は、彼自身が“=作品そのもの”であった。『水曜日が消えた』の“水曜日”とは、中村が演じた一つの人格(キャラクター)。つまりこの作品は、中村が演じる人物が作品の主体なのだ。これが本作における中村の“主役としての在り方”である。

『水曜日が消えた』(c)2020『水曜日が消えた』製作委員会

 しかし『人数の町』での中村の立ち位置は、まったく異なる。彼が演じる蒼山は、先に記した通り感情の起伏も浅く、キャラクターとして強く独り立ちしているものではない。あくまで「町」の一員でしかないのだ。中村は主役でありながら、この「町」の住人として溶け込んでいるのである。そこに息づく人々の、「数」のうちの一人に彼は過ぎない。これが両作における、中村の“主役としての在り方”の違いだろう。

 『水曜日が消えた』で演じた青年はキャラクターが特殊だが、『人数の町』で演じた青年・蒼山は、たまたまフォーカスが当たっただけの人物なのだ。主演は主演でも、演技のアプローチや、作品内での立ち位置の取り方が異なるだけで、中村自身への印象も大きく異る。少し間違えれば、『人数の町』は緊張感を欠いた緩慢な作品にもなりかねない。この手触りの違う二作を比較することで、中村の演じ手としての力がより浮き彫りになることだろう。そういった意味で『人数の町』は、中村倫也が主演だからこそ実現できた作品なのではないだろうか。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『人数の町』
全国公開中
出演:中村倫也、石橋静河、立花恵理、橋野純平、植村宏司、菅野莉央、松浦祐也、草野イニ、川村紗也、柳英里紗、山中聡
脚本・監督:荒木伸二
製作総指揮:木下直哉
製作:木下グループ
配給:キノフィルムズ
制作:コギトワークス
(c)2020「人数の町」製作委員会
公式サイト:https://www.ninzunomachi.jp

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