伊吹と志摩のように前に進むしかない 『MIU404』が視聴者に向けて投げかけたメッセージ

『MIU404』が投げかけたメッセージ

 そう、このドラマはストイックだった。第5話「夢の島」で日本語学校事務員の水森(渡辺大知)が叫んだ「外国人はこの国に来るな! ここはあなたを人間扱いしない」「ジャパニーズ・ドリームは全部嘘だ!」という台詞は、こうした問題を見て見ぬふりをしてきた私たちひとり一人の胸に突き刺さる痛烈な自己批判だ。おそらく書き手である野木亜紀子自身も胸に突き刺さりながらこの台詞を書いたのではないだろうか。

 本作には、今の作り手の多くがあまりやりたがらない、日本人としての、ひいては人間としての「自己批判」や「自戒」「内省」の念が随所に垣間見られた。ラスボス・久住が最後に吐いた「俺はお前らの物語にはならない」という台詞は、犯罪者にわかりやすい物語を付加してエンタメ的に消費するメディアやそれを求める視聴者への警鐘であったし、世の闇の本質は簡単に明文化できるものではないという示唆にもみえた。加えて「意のままに物語を動かせる神目線」にならず、現実と地続きにある場所で這いつくばって闘う野木自身の書き手としての矜持のようにも思えたのだ。この誠実さは、ドラマの中で何度も繰り返された「『正義』とはなんぞや」という問いにも通じる。

 そして、厳しさと背中合わせの優しさ。この作品には光の当たらない存在への優しいまなざしが常に貫かれていた。父親のモラハラによるトラウマがトリガーとなり一線を超えてしまう青年と、息子を自殺させてしまった十字架を背負う夫婦(第2話「切なる願い」)、青春をかけた陸上を奪われた高校生たち(第3話「分岐点」)、裏カジノから蟻地獄に嵌り逃げられなかった元ホステス(第4話「ミリオンダラー・ガール」)、「ジャパニーズ・ドリーム」の名のもと搾取され続ける留学生(第5話「夢の島」)、トランクルームで暮らすワケありの人々(第7話「現在地」)。罪は罪であると毅然と断じつつも、いつでもマイノリティの声にならない叫びを代弁していた。

 第4話「ミリオンダラー・ガール」で青池透子(美村里江)が「最後にひとつだけ」と望みを託し、1億円の宝石を女子児童慈善団体に送るとき、彼女が差出人の欄に書いた「Girls too」ーーー「私も同じ逃げられなかった女の子として」の文字が目に焼き付いている。このドラマは、世界中のどこにでもいるたくさんの「too」たちに捧げられた花束だった。

 一向に明るくならない世の中である。しかし、それでも生きていかなければいけない。8月23日に放送された『米津玄師×野木亜紀子「MIU404」対談』(TBSラジオ)にて野木は、今この時勢の中フィクションを作ることについて、「当たり前のことを言っていかなきゃいけない時代だと思っている」と語った。そうした作り手の真摯さからなる、厳しくも優しいこの作品を胸に「やるせなさひっ下げて」冗談でも言いながら、私たちは前に進むしかない。伊吹と志摩のように。

■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽のほか、生活や死生観にまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、菅田将暉、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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