草なぎ剛が『青天を衝け』で徳川慶喜を演じる意義 歴代大河ドラマでの描かれ方から探る

 では、そんな慶喜は歴代の大河ドラマではどのように描かれてきたのか?

 もっとも有名なのは1998年の大河ドラマ『徳川慶喜』だろう。主人公の慶喜を演じたのは本木雅弘。『麒麟が来る』の斎藤道三役が記憶に新しい本木だが、この慶喜役は感情を顔に出さない聡明な男で、父と井伊直弼を亡くして以降は、生き伸びるために言行不一致の道化を演じるという、複雑なキャラクターだった。

 慶喜は幕末を舞台にした大河ドラマの常連で、『新選組!』では今井朋彦 、『龍馬伝』では田中哲司、『花燃ゆ』ではお笑い芸人・どぶろっくの森慎太郎が演じた。

 『篤姫』の平岳大、『八重の桜』の小泉孝太郎、『西郷どん』の松田翔太と、二世俳優が多いのも特徴で、そのあたりは江戸幕府の将軍という育ちの良さを重ねての起用だろう。
そんな中、草なぎ剛の抜擢というのは、かなり面白いところを衝いているのではないかと思う。

 俳優として高く評価されている草なぎだが、時代劇の代表作は、フジテレビ系で放送された『太閤記 サルと呼ばれた男』と『徳川綱吉 イヌと呼ばれた男』だろう。

 この2作は脚本・福田靖、演出・鈴木雅之、企画・石原隆という『HERO』を手掛けたフジテレビのスーパーチームが手掛けたSPドラマだが、特に後者は「生類哀れみの令」という「天下の悪法」を通した自分勝手な暴君・犬公方という印象が強い綱吉を、赤穂浪士の討ち入りと対比することで掘り下げた意欲作となっていた。

 同じ徳川家の将軍といっても綱吉と慶喜では時代背景も人物造形も全く違うのだが、どこか重なるところがあったからこそ、今回の起用につながったのではないかと思う。

 『実録・天皇記』によると、慶喜は当時の典型的な知識人で、いちはやく西欧文化の優位を認め、油絵を学んだり、豚肉の入った西洋料理にも率先して箸をつけていたという。そのため生家の一ツ橋に引っかけて豚一と呼ばれており「江戸の豚京都の狆(朕)に追い出され」という庶民の川柳も残されている。

 だとすれば、今回の草なぎは『慶喜 豚と呼ばれた男』と言ったところだろうか。稲垣吾郎、香取慎吾と共に「新しい地図」を結成して以降、草なぎがテレビドラマに出演したのは、NHKスペシャル『未解決事件 File.06 赤報隊事件』のみだったため、今回の慶喜役をきっかけにドラマ出演が増えてほしいと願う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
大河ドラマ『青天を衝け』
NHK総合にて、2021年放送
出演:吉沢亮、小林薫、和久井映見、村川絵梨、藤野涼子、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、岡田健史、橋本愛、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草なぎ剛、堤真一、木村佳乃、平田満、玉木宏ほか
作:大森美香
制作統括:菓子浩、福岡利武
演出:黒崎博、村橋直樹、渡辺哲也、田中健二
音楽:佐藤直紀
プロデューサー:板垣麻衣子
広報プロデューサー:藤原敬久
写真提供=NHK

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