ジョン・ラセターの移籍は何を意味する? ディズニー/ピクサーにみる、アニメーション界の展望
近年、アニメーション業界において最もネガティブで衝撃的なニュースの一つが、ジョン・ラセターがセクハラ問題によって2018年末にディズニーを退社したことだろう。
ラセターといえば、いまや世界のアニメーションのスタンダードになったといえる“CGアニメーション”発展における代表的存在であり、「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」と「ピクサー・アニメーション・スタジオ」の制作を「チーフ・クリエイティブ・オフィサー」として統括し、さらにディズニーパークのアドバイザーを務めるなど、クリエイティブな意味において、かつてのウォルト・ディズニーの立場に最も近い人物だったといえる。
そんなラセターが、早くも2019年から「スカイダンス・プロダクションズ」の新しいアニメーション部門である「スカイダンス・アニメーション」の“ヘッド”に就任、仕事に復帰した。ここでは、彼の業績を振り返りながら、この移籍の意味するものや、今後のアニメーション界の展望について考えていきたい。
2017年、有力な映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラ、性的暴行が大問題となり、その地位を追われるという出来事があった。この問題を受け、他のケースでも同様の被害を受けた人々がそれを告発するという「#MeToo運動」が盛り上がった。ラセターが糾弾を受けたのも、この流れによるものだった。
ディズニー/ピクサーの製作に関して絶対的な存在であったラセターは、女性従業員の体に触れたり、望まないハグやキスを強要するなどの行為を日常的に行っていたとされる。これは立場を利用した女性への人権侵害であることはもちろん、アニメーション業界で活躍しようとする女性たちの未来をつぶすような行動であり、ラセターが業界にどこまで貢献していようと、擁護のしようがない行動であることは言うまでもない。そして、子どもたちに夢を与える企業としてコンプライアンスを重んじるディズニーが、このケースを許すはずもない。
だが一方で、ラセターの人間性に問題があろうと、彼がクリエイターとして有能で、同時にアニメーションを愛していることは紛れもない事実である。ラセターは子どもの頃からアニメーションへの憧れが強く、高校生になってディズニーの劇場アニメーション『王様の剣』(1963年)を、クラスメートにバレないようにこっそりと観に行ったり、ディズニー・アニメーション・スタジオに絵を送ったりしていた。大学時代にはカリフォルニアのディズニーランドで働き、「ジャングルクルーズ」の船頭を務めながらスタジオに入ることを夢見ていた。