『金曜ロードSHOW!』の対照的な2作 『打ち上げ花火』と『聲の形』にみる日本アニメの姿
そしてキャラクター描写を比較しよう。京アニは『リズと青い鳥』が特に顕著であるが、一挙手一投足に至るまで動きをこだわり抜いている。ただ歩くだけでも、それぞれのキャラクターの癖を掴み、そこに個性を感じさせる。一方でシャフトは漫画のような記号的な表現がたくさん出てくる。顔だけでなく体のラインを大きく崩すこともあり、よりコミカルであったり、あるいは迫力のある描写や傷を負ったときに痛々しさを感じさせるだろう。
『打ち上げ花火』の場合、原作となる岩井俊二のドラマ版で、特に重要なのはヒロインの奥菜恵の存在だ。その透明感や少し大人びた少女像は、多くの人々の心を掴んだ。アニメで『打ち上げ花火』を描く以上、ヒロインの及川なずなを“世界一の美少女”として描かなければいけないのだが、シャフトはキャラクターデザインに『化物語』などの渡辺明夫を起用し、萌え表現を重ねることで、それに成功している。
中盤ではなずなが松田聖子の「瑠璃色の地球』を歌うシーンが出てくるが、新房昭之総監督は『まりあ†ほりっく』や『夏のあらし!』などいくつもの作品で昭和歌謡のカバーを行っており、独特な雰囲気を醸し出している。その監督の作家性を活かした表現であり、歌詞を考えると「なんでもなれる=ifの可能性」という本作のテーマと合致している。
しかし、これらのシャフトの魅力というのは、あくまでもアニメ作品に見慣れた側の意見になるのかもしれない。近年国民的な人気を集めているスタジオジブリや、細田守、新海誠などの作品に比べると、少しアニメ的な萌え表現が過剰に見えてしまったり、あるいは外連味が強すぎるように感じられてしまう可能性がある。公開の前年に『君の名は。』が記録的なヒットをしたことにもあり、万人受けするテイストを望んで劇場に向かった場合、あまりの映像表現に呆気にとられることもあるだろう。
だが、本来アニメ表現とはもっと自由であっていいのはずだろう。海外アニメーションに目を向けると、鉛筆画や水墨画のような絵が動いたり、あるいは棒人間のキャラクターデザインの作品もあり、多様性に満ちており驚かされることが多い。日本の場合、深夜アニメなどでは挑戦的な作品もあるものの、そこまでアニメに詳しくない人が目にするアニメ表現はどうしても似たようなものになってしまいがちな印象がある。
今回放送された『聲の形』あるいは『打ち上げ花火』からは、少なくとも既存のアニメ作品っぽさは感じにくいのではないだろうか。それらは特に2000年以降、そのスタイルを確立し、ファンから支持を集めたスタジオの味が詰め込まれている。今の日本アニメの異なる2つテイストをぜひこの機会に味わってみてほしい。
■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame
■放送情報
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
8月7日(金)21:00〜22:54放送
※地上波初放送・ノーカット
原作:岩井俊二
総監督:新房昭之
脚本:大根仁
プロデューサー:川村元気
声の出演:広瀬すず、菅田将暉、宮野真守、松たか子、浅沼晋太郎、豊永利行、梶裕貴、三木眞一郎、花澤香菜、櫻井孝宏
(c)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」 製作委員会