コロナ禍に考える『MOTHER マザー』と『二人ノ世界』 “今”を象徴する2作から見えた光

“今”を象徴する映画2作から見えた光

 一方、『MOTHER マザー』とは違い、『二人ノ世界』のほうは、俊作が首から下が不自由になったことも、華恵が全盲になったことも、本人に非はほとんどない。にもかかわらず、二人に向けられる周囲の目は、物珍しそうな野次馬的目線ばかり。かつてはそんな目線に耐えられず、家にこもりきりだった俊作が老父の死を乗り越え、ようやく外に出ようと前向きになる。

 しかし、そんなとき、お祭りに出かけた二人に対し、すれ違った者から、「邪魔だ!」という心ない言葉が投げつけられる。思わず華恵は反論し、悲しそうにこうつぶやく。

「うちらかて、普通の人やのにね。俊作さんは体が動かへんし、うちは目ぇが見えへん。それだけのことやのにね」

『二人ノ世界』(c)2020『二人ノ世界』製作プロジェクト

 実はこの光景は、「電車の中のベビーカー問題」とそっくりだと思った。「混雑している時間にベビーカーは邪魔」というのは、確かにその通りだろう。「ベビーカーじゃなく、抱っこ紐で移動すれば」「そもそも子持ちは時間があるんだから、あえて混んでいる時間帯に移動せず、空いている時を選べばよい」などというのも正論だ。しかし、抱っこ紐では移動できない理由、混雑時に移動しなければいけない理由があるのかもしれない。それに、そもそも常に自分の意思や都合よりも「他者」「周りのこと」を優先しなければいけないのだろうか。

 自分も含め、「他者にできるだけ迷惑をかけないように」と考え、日々注意しながら生きている人は多いだろう。でも、「迷惑をかけないように注意を払うこと」が、ときにはそのルールや領域を侵す他者に対しての無理解や想像力のなさ、不寛容さになっていないだろうか。

『二人ノ世界』(c)2020『二人ノ世界』製作プロジェクト

 ある出来事をきっかけに、これ以上迷惑をかけるなと冷たく言い放つ俊作の親類に対して、華恵は言う。

「迷惑かけんと、うちらにどないして生きろ言うんや!」

 また、俊作が失意のうちに呆然と呟いた一言が胸に刺さる。

「結局、俺らは全部取り上げられなあかんのかな。何もできへんいうだけで、全部あきらめなあかんのかな」

 コロナ禍で先が見えない暗闇が続く今、人と人との交流も制限され、孤独を感じている人は少なくないだろう。そんな中、誰もが光を求めている。この2作は、現状とその先の光を考える何らかのきっかけになるはずだ。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■公開情報
『MOTHER マザー』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、木野花
監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣、港岳彦
音楽:岩代太郎
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
配給:スターサンズ、KADOKAWA
(c)2020「MOTHER」製作委員会
公式サイト:mother2020.jp

『二人ノ世界』
イオンシネマにて公開
監督:藤本啓太
出演:永瀬正敏、土居志央梨、牧口元美、 近藤和見、 重森三果、宮川はるの、木村貴史、ミズモトカナコ、勝谷誠彦 水上竜士 楠見薫
プロデューサー:林海象、岡野彰、片岡大樹、藤本政博
原作・脚本・松下隆一小説「二人ノ世界」(河出書房新社)
配給:エレファントハウス
共同配給:イオンエンターテイメント
(c)2020『二人ノ世界』製作プロジェクト    
配給HP:https://zounoie.com/2020/06/ 26/post-891/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる