『やまとなでしこ』松嶋菜々子演じる桜子は自ら幸せを掴み取る 究極のハッピーエンドが伝えるもの
そして、このやり取りを見ていた欧介も感化され、彼の中での変化を促す。頑固そうな海の男が、娘の滅茶苦茶な要望を飲み込み、「父親だって洋服みたいにTPOに合わせて取り替えられたらいいのに」とまで言い放った娘に対して「安心しろ。もうお前の前にのこのこ現れたりしないから。父ちゃん、海に落ちて死んじまったってことにでもしとけ」と言うのだ。これまで頑なに、父親が残してくれた魚屋を切り盛りするのが自身の宿命だと、数学者の道を諦め続けてきた欧介。親が子の幸せを想う気持ちの大きさを目の当たりにし、知らないうちに自分ももう一度夢に手を伸ばす後押しを得たのではないだろうか。親の愛情を侮ってはいけないのだ。
結婚式を抜け出した桜子が東十条に伝えた「1番の嘘」、「あなたのことをこれっぽっちも愛していなかった」。彼女が東十条に対して見せた最初で最後の誠実さであり、唯一の真実であった。
桜子と欧介2人の間でひたすらナイスアシストをしてくれた佐久間真理子(森口瑤子)の「あなたたちはまだ何も始まっていないじゃない」「欧介くんを優しい殻から引きずり出せるのは桜子さんだけ」という言葉も印象的だった(自身の本音に気づいた瞬間、及び腰になってしまう恋する全アラサー女性に届けたい言葉だ)。
ニューヨークでの再会シーンは、究極のハッピーエンド。桜子が初めて見せる100%の打算なしの好意。これまで相手の気持ちばかり先回りして考え、優先してきた欧介の「僕はあなたのことが好きです。たとえ明日、あなたの気が変わってしまっても」。欧介が初めて自分の気持ちを何よりも優先し、優しい殻を打ち破った瞬間だった。
今回観直してみてはっきりわかったのは、桜子は単に金持ち男性のトロフィーワイフとして収まるタイプの女性ではないことだ。自分で幸せを掴み取っていく力をあれだけ備えているのだ。鳥かごの中は安全に違いないけれど、その鳥かごがどんなに綺麗に、快適に整った環境だろうと、所詮はかごの中。彼女にとってそんなものはすぐに窮屈で退屈な場所と化してしまう。どこまでも果てしなく広がる大空にはどうしたって敵わないのだ。
■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter
■放送情報
『やまとなでしこ 20周年特別編』
出演:松嶋菜々子、堤真一、矢田亜希子、筧利夫、須藤理彩、東幹久、森口瑤子、西村雅彦ほか
脚本:中園ミホ、相沢友子
主題歌:MISIA「Everything」(Sony Music Labels)
企画:石原隆
演出:若松節朗、平野眞
プロデュース:岩田祐二
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビジョン
(c)フジテレビ
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