実話サスペンス『バルーン 奇蹟の脱出飛行』 題材のモデルが明かす、決死の脱出劇の真相

西ドイツの土を踏んだ瞬間の感情

ーー映画内ではペーターさんが電気技師ということが明かされていましたが、ヴィッツェルさんは気球に関する知識がもともとあったのでしょうか?

ヴィッツェル:専門的な知識は全くありませんでした。私は計3回、気球を作ったのですが、最初のものは、記事を見てなんとなく想像して作っただけだったので、大失敗だったんです。そして2回目に作ったものが、映画の序盤に登場する気球です。2回目に挑戦するときは、数学や物理を駆使して、計算すればちゃんと設計できることがわかり、よりいいものを作るように努力しました。当時の東ドイツは、生活する上で何か故障や不具合が起きても自分で修理しなければいけない状況でした。なので、みなさん手先が器用で、自分で工夫してものを作るスキルがあったんですよ。

ーー実際に西ドイツの地を踏んだと確信したときの気持ちを教えてください。

ヴィッツェル:まず最初に気球が着陸したときは、自分たちがどこにいるかわかりませんでした。とにかく着陸したことで緊張が一気に解けて、急に不安な気持ちや疲れが出てきたんです。そんな中で周りの状況を確認しようと、歩き出して電柱を発見しました。そこには地名が書かれてあったのですが、私の知らない地名でした。そして道路に出ると警察の車がいて、その車がアウディだったんです。そこで西に入ったことを確信しました。ペーターが一応「ここは西ドイツですか?」と警察に聞くと、「他にどこだと?」と答えが返ってきたんです。そのときの幸せな気持ちは忘れられません。

ーー車の車種で気づいたんですね。

ヴィッツェル:警官も私たちが東ドイツから逃亡してきたのだとわからなかったようです。なにせそこは国境から10kmも離れていたし、当時はRAFというドイツ赤軍がテロを起こしていたので、僕たちのことをテロリストじゃないかと警戒していたようです。警官と話をした私が家族を呼ぶために照明弾を放ったところで、私たちの素性に気づいたわけです。彼らはすぐに署に連絡を入れて、赤十字の車で警察署まで連れて行ってもらい、聴取を受けました。それと私は着陸時に足を怪我してしまったので、そのまま入院することになりました。なので、そのあとメディアの対応は全てペーターが行ったのですが、彼がまるで全て自分の手柄のように話してしまい、それを修正できなかったのが心残りです(笑)。

■公開情報
『バルーン 奇蹟の脱出飛行』
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
出演:フリードリヒ・ミュッケ、カロリーヌ・シュッヘ、デヴィッド・クロス、アリシア・フォン・リットベルク、トーマス・クレッチマン
監督:ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ
脚本:キット・ホプキンス、ティロ・レーシャイゼン、ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ
配給:キノフィルムズ/木下グループ
2018年/ドイツ/ドイツ語/125分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:Balloon/日本語字幕:吉川美奈子
(c)2018 HERBX FILM GMBH, STUDIOCANAL FILM GMBH AND SEVENPICTURES FILM GMBH
公式サイト:balloon-movie.jp

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