ヴァリアント・コミックスはマーベル、DCに続くか? 『ブラッドショット』映画化の経緯を辿る

 ヴァリアント・シネマティック・ユニバース構想に拍車がかかったのは、ヴァリアントがDMGエンターテインメントという中国資本の総合メディア&エンタメ企業に買収されたことが大きいのかもしれません。DMGは2014年にヴァリアント・エンターテインメントの筆頭株主になり、2018年にここを完全子会社化。出版の枠を超えたコンテンツビジネスにのりだします。これはあくまで僕の推測ですがソニー・ピクチャーズが『ハービンジャー』の映画権をパラマウントから買い取ったのはDMGの意向があったのではないかと思います。つまり、DMGはソニー・ピクチャーズと組んでヴァリアント・シネマティック・ユニバースを作りたかったのでは?

NINJAK VS THE VALIANT UNIVERSE - The Complete Webseries

 その一方でDMGは『Ninjak vs. the Valiant Universe』という実写ドラマシリーズをWebで公開します。これはヴァリアント・コミックスの異色の忍者スパイ・ニンジャックがブラッドショットらほかのヒーローと戦っていくというもの。配信ドラマというよりはヴァリアントヒーローたちの紹介を目的としたプロモーションビデオ的な意味合いの作品。こうした一連の動きはヒーロービジネスにおいてマーベル、DCの次にヴァリアントが来る! と大いに期待させてくれるものでした。しかもソニー・ピクチャーズによるヴァリアント映画第1弾『ブラッドショット』はあのヴィン・ディーゼル主演! キックオフとしては申し分ない。

 ところが! ここでまたまたビックリすることが起こります。2020年の『ブラッドショット』の公開を待たず、突如ソニー・ピクチャーズは『ハービンジャ―』の映画化権をパラマウントに売ってしまうのです。2019年秋のことでした。これはややこしいので、もう一度書きますが、2015年にソニー・ピクチャーズは『ハービンジャ―』の映画化権をパラマウントから買ったのに今度はパラマウントがソニー・ピクチャーズから買い戻したというわけです。当然、この売買の裏にはDMGも関与していることでしょう。

 この動きから推測されることは、

<1>ソニー・ピクチャーズは『ブラッドショット』の映画は作ったが、もうそれ以上のヴァリアント・コミックス原作映画を作る気はない。(映画『ブラッドショット』をご覧になった方はおわかりになると思いますが、あの作品にはこの先ほかのヒーローが出てきそうな“匂わせ”はほとんどありません。つまりこれ単品で終わらせる感じでしたよね)

<2>この先、DMGとパラマウントが『ハービンジャ―』を核にしてヴァリアント・シネマティック・ユニバースを作っていく可能性がある。DMGはパートナーとしてパラマウントを選んだ。

 ということです。

 ソニー・ピクチャーズがなぜヴァリアント・シネマティック・ユニバース構想から降りたのか、その真意はわかりません。ただ、『スパイダーマン』『ゴーストバスターズ』『メン・イン・ブラック』『チャーリーズ・エンジェル』などの映画化権を持つソニー・ピクチャーズとしては、こっちのヒーローたちのフランチャイズに注力することの方が大事と思ったのかもしれません。特にスパイダーマンはそもそもマーベル・コミックのヒーローで、ディズニーとコラボしてMCUとも良好な関係にありますから、これ以上コミック原作のユニバースは要らないと判断したとも考えられます。

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