ヒョンビン出演作で振り返る韓流ラブコメ 『私の名前はキム・サムスン』から『愛の不時着』まで

 Netflixのランキングで総合トップ1の座に連日輝いている韓国ドラマ『愛の不時着』。コロナ禍で多くの人が家で過ごす時間も長くなった時期だけに、普段は韓流ドラマを観ていない人もその魅力に気づくところとなり、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEの岩田剛典など、多くの著名人が視聴したことも話題となっている。

 『愛の不時着』は、韓国で事業を展開しているヒロインのユン・セリが、パラグライダーの飛行中に急な竜巻に巻き込まれて北朝鮮に不時着してしまうというところから始まる。一見、ありえないようにみえて、ギリギリ現実的な物語の設定という点にも、興味を惹かれた人が多いのではないだろうか。

 そんなヒロインが北朝鮮で出会うエリート将校のリ・ジョンヒョクを演じているのが、韓国の俳優、ヒョンビンだ。ヒョンビンとは一体どんな俳優なのか。2000年代にデビューし、その後、常に輝いてきたヒョンビンの作品3本を振り返ってみたい。

『私の名前はキム・サムスン』

 ヒョンビンのデビューは2003年。ドラマ『ボディガード』に短い時間ではあったが出演。すると、「あの人は誰?」と話題になったという逸話は、韓流ブームのころに、私も何度も書いたエピソードだ。「光り輝く」という意味の芸名でデビューしたヒョンビンは、2006年に自身の初主演映画『百万長者の初恋』を引っ提げて、初来日も果たした。私もその来日記者会見に取材に行っていたが、会場は超満員で、当時からヒョンビンの注目度の高さがうかがえた。

 というのも当時、ヒョンビンを一躍スターにした2005年のドラマ『私の名前はキム・サムスン』が爆発的な人気を誇っており、ヨン様に続くスターの来日に、皆こぞって集まっていたのだった。

 『私の名前はキム・サムスン』は、韓国版『ブリジット・ジョーンズの日記』ともいえる作品で、「ちょっぴり太めで独身パティシエ」(とどこのあらすじにも書いてある)のサムスンが恋人に振られたところから始まる。その現場に居合わせたのがヒョンビン演じるジノンなのだが、このジノンがエリートでレストラン経営をしているが、性格が曲がっていて、いわゆるツンデレな王子様なのだ。

 しかし、ジノンはサムスンと過ごしているうちに、次第に彼女に惹かれていく。サムスンは酔ってジノンに向かって吐いてしまうし、暴言も多い。正直、なかなかはた迷惑なヒロインなのだが、そんなサムスンのことを、「おもしれー女だな」と、あきれつつも横をむいてクールに笑うヒョンビンが今観てもいい。韓流ドラマの男性キャラクターの魅力は、こういうところにあるのだと思わせる。

 ヒョンビン自身も、まだ若い。だから、鼻持ちならない御曹司を演じながらも、どこかかわいらしいところも見え隠れする。考えてみれば、韓国のラブコメは、この頃から盛り上がり始めていた。そう考えると、ジャンルの礎を築いた一つの作品が、この『私の名前はキム・サムスン』やジノンのキャラクターだったのかもしれない。

『シークレット・ガーデン』

 ヒョンビンが兵役に就く直前の2010年に出演したドラマ『シークレット・ガーデン』も放送当時、話題となった作品だ。個人的な印象なのだが、兵役に就く前の俳優は、入隊直前の出演作で、なんらかのインパクトを残したり、キャラクターを印象付けることによって、ファンに「2年間、その思い出を胸に待っていてね」というメッセージを送るという、目に見えない慣習のようなものがあるのではないかと思える。この作品もそれくらいインパクトがあったし、ヒョンビンにとっても当たり役だった。

 『シークレット・ガーデン』は、ドラマのスタントをやっているヒロインのライムがひょんなことから御曹司のキム・ジュウォンと出会い、恋に落ちる物語である。

 ヒョンビンの演じたキム・ジュウォンは、御曹司だけれど、普段はスパンコールのついたジャージを着ている。そのせいもあり、御曹司には見えづらいキャラクターだ。またジュウォンはそのジャージを気に入っていて、タグをライムに一生懸命みせようとしたり、ライムのことが気になりすぎて、妄想が始まったり、またライムの運転する車の助手席でただただビビっていたり、ヘタレでかっこ悪いところを見せているところも、それまでの韓流ドラマの男性キャラクターとは違う点であった。

 この作品は当初は御曹司と庶民のヒロインのラブコメディかと思わせながら、途中でなぜか、ふたりが入れ替わるという、あっと驚かせる設定でも大いに話題となった。ふたりが入れ変わった朝の、ライムの心が自分の中に入ったときのヒョンビンの演技の変化にも驚かされた。

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