「コロナ以降」のカルチャー 現在地から見据える映画の未来
井浦新が問う、コロナ以降の表現者のあり方 「世界で起きていることに、よりしっかりとつながる」
経験したからこその表情が自然と出てくる
ーー井浦さんは役者として表現を伝える立場ということで、今後、コロナ禍以前の物語や表現とは意味合いが違ってきてしまう部分も出てくると思います。役者としてこれからの時代の表現について考えていることはありますか?
井浦:そこは僕自身も楽しみにしているんですが、とにかく現場に行ってみないと、今イメージしているものが、果たして通用するのか、求められるのかも分からないなと。監督や作品に、目に見える変化を表すことを求められたら、できるようにしていなきゃいけないと思いますが、心持ちやコロナ後の生きる構えが変化していれば、まずはいいんじゃないかなと思うんです。これからは、世界で起きていることに表現者たちはよりしっかりとつながっていかなきゃいけなくなるなと思います。特に役者は、そういう社会との繋がりを遮断して、浮世離れした世界でいることが役者の表現に生きるという妄想もあったと思うんです。確かにそうやって昭和のスターの人たちは時代を作られてきましたが、それは60〜80年代の流れにハマったから機能したことで。観てくださる人たちに夢や希望を与えたり、心を動かせるものは浮世離れの要素もありながらも、現実というものにもちゃんと向き合っているものがほとんどです。自分が見て見ぬふりをしてきたことや、やれなかったこと、もっとできたことなどをできる時間もあるので、それをやっていくことがこれからの表現に大きく左右してくるんじゃないかなと思います。
ーー時代の流れとともに変化していく必要があると。
井浦:ただ、何も変わらないというものを見せることも、時としては大事になってくると思います。今まで無意識にやってきたことも意識してやったり、このコロナ禍を経験してきた1人の人間として心と体がどう動くのかを求められると思うので。だからこそ、これから自分はどう生きていくのかを考えることが必要なんだと思います。それを考えていれば、作品や監督によって求められたときに、また新たな自分の感情だったり、経験したからこその表情が自然と出てくる。その表現に滲ませるためにも、いまこの現実としっかり向き合うことがコロナ後の表現者たちに必要なことだと思うんです。
ーーまさにいま、医療従事者の方や、こんな状況でも働いてる方がたくさんいます。そういう中で心を弱めてしまったり、どうしても塞ぎがちになってしまう方もいると思います。人々がこの状況下で、どういう心持ちでいれば少しでも気持ちが楽になり、勇気を持って生きていけるか、井浦さんからメッセージをお願いしたいです。
井浦:世界中の医療従事者の方たちは命がけで毎日みんなのために働いてくれていますし、ゴミ収集の方たちもゴミの量が倍になって、仕事の量も増えているにも関わらず、感染の危険性もある中で運んでくださっています。だから僕たちは安心して生活できているし、感謝をする人たちがキリがないくらいたくさんいらっしゃる。本当に全ての方たちに感謝です。これから6月、7月となっていくと、1人1人の生活の存続がどうなっていくのかと、気持ちがどんどん不安に蝕まれていけば、家庭内での暴力や隣近所に対しての誹謗中傷というのも、どんどん大きくなっていくと思います。そんな中で人間の心のあり方が本当に大事になってくる。新型コロナウイルスに感染した方を差別することは絶対にあってはいけません。僕たちが求められるのは、人と人が助け合っていけるという気持ちだと思います。弱い自分自身に打ち勝っていかなきゃいけないと試されていている状況でもあるし、僕はマスクをしてソーシャルディスタンスを図りながら、やっぱり積極的に他者と声を掛け合っていきたいです。そんな社会だったら絶対に乗り越えられるはずだと思っています。まだ始まったばかりなので、皆さんが疲れて大変な状況ですけど、その癒しとなるためにも映画や音楽、文化や芸術があります。こういうときだからこそ、それらを楽しんでいただきたいですし、心を癒してほしいです。
■井浦新
俳優。「SAVE the CINEMA」プロジェクト呼びかけ人。日台共同制作ドラマ『路(ルウ)~台湾エクスプレス~』(NHK総合)放送中。