『美少女戦士セーラームーン』がアニメ界に起こした革命 無料配信を機に考える

『セーラームーン』がアニメ界に起こした革命

 4月24日から『美少女戦士セーラームーン』初期3作が公式YouTubeにて期間限定配信が開始され、Twitterでも大きな話題となった。女性ヒーローの先駆けとも呼べるビッグコンテンツ、30年近く前の作品を改めて鑑賞することで、『プリキュア』などに通じる長寿シリーズの魅力を考える。

 『セーラームーン』がビッグタイトルであることは論を待たない。1992年に社会現象と言われるほどの大ヒットとなり、一般メディアでも取り上げられた。だが『セーラームーン』という作品がアニメ史で特筆すべき存在であるのは、あの時代背景を抜きにはしては語れない。

 1990年代はアニメファンにとって受難の幕開けであった。1989年のM君事件をキッカケにマンガやアニメの(主に男性)ファン全般に対する激しいバッシングの最中で、当時成年男性が「アニメが好き」を表明することは、カミングアウトと呼んでもいいぐらいハードルが高かった。さらには社会全体が、バブル経済の崩壊後の重苦しい時代でもあった。そんな1992年に放送開始の『セーラームーン』は、虚を突いた思い切ったデザインや、月野うさぎの、当時の主人公には珍しいドジッ子ぶりに象徴される緩く「お馬鹿」な明るさで、暗い世相に光を当てていくことになる。

 開始当初は玩具の売り上げは苦戦して打ち切りも検討されたというが、クリスマス商戦には想定を遥かに超える人気で急遽延長が決定。同じく1992年末のコミックマーケットでも大量の同人誌が頒布された。『セーラームーン』がアニメファンに強くアピールした要因を、庵野秀明は「凄く使い勝手のいい遊び場なんですよ」と分析している(インファス発行『STUDIO VOICE』1996年10月号での東浩紀との対談)。セーラー戦士たちは無論、敵のクンツァイトとゾイサイトのBL的な関係性は「クン×ゾイ」と呼ばれて人気となった。そして同人誌の描き手の多くが女性だったところに『セーラームーン』のエポックメイキングたる所以がある。アニメファンの男女の垣根を取り払ってみせたのだ。

 その熱気に加え3年後の『新世紀エヴァンゲリオン』の大爆発を受け、大人がアニメを観て語ることが市民権を得ることになる。『鉄腕アトム』以来の日本アニメの歴史を、現在の繁栄に繋げた功績で『セーラームーン』は永遠にアニメ史に名を遺した。

 ミュージカル版は、2.5次元という言葉が生まれる以前から大人のファンを引きつけキャストを更新して上演され、実写版、さらに新アニメ版が製作され、日経BP社『日経エンタテインメント』誌2014年3月号の「アニメ名作遺産100」の90年代タイトル部門で12位にランクインしている。

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