定番の“異能バトル”にいくつもの要素を取り込んだTVアニメ 『グレイプニル』の非日常な面白さ

 人並はずれた超能力を手にした主人公が、同等の力を持つ敵と戦う異能バトルは少年漫画によく見られる設定だが、そうした定番の設定の中に、バディ(相棒)もの、謎解きミステリー、SF、コメディといった、それぞれ単体でも楽しめる要素をいくつも取り込んで練り込み、エンタメに昇華させているのが、現在放送中のTVアニメ『グレイプニル』だ。2015年より『ヤングマガジンサード』(講談社)で連載中の、武田すんの同名漫画をアニメ化したもので、単行本が現在8巻まで発売されている。

 犬の着ぐるみのような“バケモノ”に変身する能力を、望まずに得てしまった高校3年生の加賀谷修一と、彼の秘密を知った高校1年生の青木紅愛(以下、クレア)。クレアは両親を殺して失踪した姉の江麗奈(以下、エレナ)の行方を追っており、そんな彼女と姉探しの協力をする過程で修一は、自分をバケモノの姿に変えた人物がほかならぬエレナであることを知る。2人はエレナが姿を消す前に残した、人の願いごとをかなえる不思議なコインを集める収集者として、他の収集者たちとの戦いに身を投じてゆく。これが『グレイプニル』の大まかなアウトラインである。犬型のバケモノに変身した修一の中に、さながら着ぐるみを着込むかのようにエレナが入り、2人でひとつのコンビネーションを組んで敵と戦うのだ。

 特異な能力を持ちながら、戦闘や殺人に躊躇する消極的な修一とは反対に、その辺りへの迷いがないクレアが積極的に戦いのイニシアチブを握る。クレアが「私たちは2人でひとつよ」と口にするように、互いの協力が不可欠な存在なのだが、いくつかの戦いを経て2人の絆はより強固なものへと変わってゆく。

 本作で敵味方が争奪戦を繰り広げるキーアイテムの金色のコインとは、宇宙船が地球に墜落した際に散らばってしまった、宇宙人の同胞の姿だという。宇宙人は特定の姿を持たず、他の物体に変身することで個体を形作っている。宇宙人のひとりは人間の男性の姿を模して、廃墟になったラブホテル跡の自動販売機付近に住んでおり、コインを持ってきた人間の望みをひとつかなえる。そこで宇宙人から特殊な能力を得た者が、さらなるコインを集めるためのグループを作って収集活動をするのだ。集めるコインは多ければ多いほど、かなう願いのスケールが比例して大きくなる。手にした者の願いごとをかなえるアイテムは、人間の欲望や対立劇を描きやすいことから、バトル物の基本設定に使われることが多い。有名なところでは『ドラゴンボール』がそうだ。

 もちろん前述のとおり、『グレイプニル』を構成する要素はバケモノ同士の異能バトルと、クレアの姉エレナにまつわる謎解きだけではない。修一とクレアが通う高校の描写、普通の高校生としての修一の姿も描かれるし、コインの力でバケモノになった人間の、それまでの日常も回想で描かれるのだ。バケモノの力を得た彼ら、彼女らも平時の姿の時は割と平凡な学生だったりする。日常パートではクレアの少しエッチなからかいに赤面し、狼狽する修一のラブコメ的な味わいもあり、コメディタッチの楽しい日常と殺伐とした非日常の振り幅もまた魅力のひとつと言えるだろう。

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