『浦安鉄筋家族』の美しいバカバカしさ 全キャスト真剣勝負の異種格闘技っぷりが痛快
さらに、なんといってもキャスト陣の全身全霊の取り組みが胸を打つ。大鉄を演じる佐藤二朗は自ら「これは、もう、役作りは不要」(公式サイトより)と語るほどこの役にハマっていながら、新たな味わいとオリジナリティを加えている。大鉄の妻・順子役の水野美紀は持ち前のアクション・スキルとコメディ・センスを遺憾なく発揮。アクの強いキャストたちによるどんな暴投も受け止めて投げ返す名捕手ぶりを見せている。長女・桜役の岸井ゆきのは、大沢木家の良心的ポジションでありながら「攻めの笑い」もきっちり取る、頼もしい存在だ。
ほかにも、真に迫るおたくっぷりで長男・晴郎を熱演する本多力、ビジュアル的にこれ以上ぴったりのキャスティングはない祖父・金鉄役の坂田利夫、桜の彼氏でやたら裸になる花丸木を至高の天然変態仕草で演じる染谷将太、次男・小鉄(斎藤汰鷹)の担任のダメ教師・春巻の野性味と狂気を完璧に演じてみせた大東駿介など、盤石の布陣だ。エキセントリックな作品世界だからこそ、少しでも役者に照れや遠慮が入るとキャラクターに説得性を持たせられないし、ギャグも寒くなってしまう。そのあたりを深く理解したキャスト陣の突き抜けっぷりが実に痛快だ。
これだけ個性的なレギュラー陣に加え、回ごとのゲスト・キャストも振るっている。第2話では公園でママ連を仕切るボス主婦・柳梅を藤田朋子が凄みたっぷりに演じ、大鉄とカーチェイスを繰り広げる凶暴な女性警官・江戸紫桃代をアジャ・コングが演じた。また、大仁田厚をカリカチュアライズした熱血警官・大谷暑司役を大仁田厚が演じるという“逆輸入現象”に笑わされた。
原作の「アントニオ猪木にそっくりな“国会議員”が大沢木家にトイレを借りに来て巨大うんこを残していく」というエピソードが投入された第3話では、“国会議員”の代わりに真壁刀義が本人役で登場。シュールすぎるトイレシーンをやりきった。小鉄のクズ担任・春巻がフィーチャーされる第4話で副担任・長崎屋奈々子を演じた広瀬アリスが、唯一の良識的キャラと思いきや終盤でド弾けるさまは圧巻だった。第5話で大沢木家の隣に引っ越してくるドケチ関西人の平澤家をバッファロー吾郎A、MEGUMI、平澤宏々路が、大沢木家の面々に負けず劣らずのハイテンションで演じた。こうして毎回繰り広げられるレギュラー陣とゲスト陣とのセッションも底抜けに楽しい。
プロフェッショナルな大人たちが魂を込めて、本気でバカをやっている。その真剣勝負の異種格闘技に安心して没入し、身を委ねて爆笑できる40分間は、何物にも代え難い。そして、バカバカしさのなかにも「だから君も、もっと思いっきり好きに生きていいんだよ」というメッセージが込められているように感じられるから不思議だ。サンボマスターによる主題歌「忘れないで忘れないで」の歌詞「それぞれの花に それぞれの意味さ 美しい意味さ」が妙に染みる。そう、これは全力でバカバカしく美しい、人間賛歌なのだ。
■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽のほか、生活や死生観にまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。
■放送情報
ドラマ24『浦安鉄筋家族』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜放送
※テレビ大阪のみ、翌週月曜深夜0:12〜放送
地上波放送終了後、動画配信サービス『ひかりTV』『Paravi』で配信
出演:佐藤二朗、水野美紀、岸井ゆきの、本多力、斎藤汰鷹、キノスケ、坂田利夫、染谷将太、大東駿介、松井玲奈、宍戸美和公、滝藤賢一
ゲスト:広瀬アリス、MEGUMI、バッファロー吾郎A、ぺこぱ・シュウペイ
オープニング・テーマ:サンボマスター「忘れないで 忘れないで」(ビクターエンタテインメント / Getting Better)
エンディング・テーマ:BiSH「ぶち抜け」(avex trax)
原作:浜岡賢次『浦安鉄筋家族』(少年チャンピオン・コミックス)
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:藤田絵里花(テレビ東京)、神山明子
監督:瑠東東一郎、吉原通克、諏訪雅、松下敏也
脚本:上田誠、諏訪雅、酒井善史(ヨーロッパ企画)
制作:テレビ東京、メディアプルポ
製作著作:「浦安鉄筋家族」製作委員会
(c)浜岡賢次(秋田書店)1993・(c)「浦安鉄筋家族」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/urayasu/
公式Twitter:@tx_urayasu