林遣都ロスのあなたに Netflix『火花』ほか、必見“関西弁ドラマ”で振り返るその実力

林遣都の実力を“関西弁ドラマ”で振り返る

『火花』(Netflix)

火花 予告編 - Netflix [HD]

 さて次は、大阪もの。これこそ、やんちゃな地方都市の青年系の最たるものであろう。「関西弁しゃべれます、とアピールしてつかんだ」という『火花』(2016年)の主人公・徳永。又吉直樹の芥川賞受賞作にして大ベストセラー小説をNetflixで配信ドラマ化という話題作の主演。

 林遣都は実に生き生きと大阪弁で新人漫才師を演じていた。漫才コンビ・スパークスのボケ担当・徳永は天才的な笑いの才能をもった神谷(波岡一喜)に魅入られ、弟子入り。彼の笑いの哲学を受け継いでいこうとする。若者が売れる前の黎明期であり、青春時代の終焉。まだスターになる前で可能性と夢だけがあって、かっこ悪いところも含めて、哀愁も伴いながら最高にキラキラと輝いている時期を演じるときに、子供のときから使ってきた関西弁は有効であろう。笑いに対する思いを滔々と語るとき、“実”がたっぷり籠もって聞こえた。スピーディな漫才も、相方とのふだんの会話も軽妙。また、関西弁とは関係ないが、林遣都は強烈な人物に振り回されて、困り顔になる役が似合う。神谷に振り回されて、でもまんざらではない感じが微笑ましい。『スカーレット』でも戸田恵梨香と大島優子に振り回されていたっけ。

『アオゾラカット』(NHK BSプレミアム)

『アオゾラカット』PR動画

 もう1作の大阪ものは『アオゾラカット』(2017年)。のちに『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)で春田(田中圭)をめぐるライバルとなる吉田鋼太郎と『カラマーゾフの兄弟』(2013年/フジテレビ系)に続く父子役。父と確執がある息子が母の死をきっかけに大阪・西成に帰郷し、実家の美容院を手伝う。なにかとぶつかり合う父と子だったがやがて……というデリケートな心の動きを描いた作品だ。林遣都はぶっきらぼうで反抗的な、でも内面は愛情を求めているという役を的確に演じている。『京都人のひそかな愉しみ』もそうなのだが、林は鋏の使い方が美しい。『京都人のひそかな愉しみ』では植木鋏、『アオゾラカット』ではヘアカット鋏。金属の鋏のシャープさと林の手指のシャープさがマッチして仕事に対する緊張感が増幅する。髪を切るときの表情もいい。林遣都はまるで鋏を入れるときの儀式のように、今、この瞬間を大切にして見える。

 大阪ものではもう1作、大阪の寒天職人の半生を演じた『銀二貫』(2014年/NHK総合)が林遣都を語るうえで重要だが、残念ながら、これは現在オンデマンドでは観ることができない。林がはじめて時代劇に挑戦した作品で、武士の子供が商人に転身する、その人間的成長を描いたもの。武士道と、身分を捨て市井の民としての生き方の飛距離を演じたことが、その後の林遣都を形作っているのではないかと思う作品である。こちらもぜひ配信してほしい。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■配信情報                                   
Netflixオリジナルドラマ『火花』
出演:林遣都、波岡一喜、門脇麦、好井まさお、村田秀亮、菜葉菜、山本彩、染谷将太、田口トモロヲ、小林薫
総監督:廣木隆一
監督:白石和彌、沖田修一、久万真路、毛利安孝 
原作:又吉直樹著「火花」(文藝春秋刊)
脚本:加藤正人、高橋美幸、加藤結子
制作プロダクション:ザフール パイプライン
制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
製作:YDクリエイション
(c)2016YDクリエイション

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