『INGRESS』から『BNA ビーエヌエー』まで フジテレビのアニメ枠「+Ultra」の戦略と思想

 そもそも日本のアニメが面白いのは、それが日本的だからではなく、日本的なものをその一部として含みこんだ“雑多性”を発展させてきた点にある。キッズアニメもあればオトナアニメもある。エロもグロも萌えも量産する。それこそが日本アニメの特徴であると言っても過言ではない。

 もっと言えば、アニメーションそのものがこの“雑多性”によって構成されている技術に他ならない。1つのアニメ作品には複数の制作者が関わっている。監督のディレクションによって統一されながらも、それぞれの制作主体がそれぞれのセンスを発揮しながら制作に携わる。複数の技術が結合し,複数のメディアが混在する。石岡良治と高瀬浩司は『アニメ制作者たちの方法』の中で、そうしたメディアミックス的な状況を「不純さ」と呼んでいる(高瀬康司編『アニメ制作者たちの方法 21世紀のアニメ表現入門』、フィルムアート社、2019年、pp.220)が、まさしくそうした“不純さ”や“雑多性”が、アニメという媒体の本質を成しているのだと言える。

 このような“不純さ”と“雑多性”がホットスポットのように密集しているのが、日本のアニメのリアルな状況なのであり、だからこそ日本のアニメは面白いのだ。故にこれからの日本アニメに期待すべきなのは、常に加算的に表現の“雑多性”を増大させて続けていくことである。その名に「+」の記号を冠した「+Ultra」は、その登場自体が既存の放送枠に対する加算的なプレゼンスを持っているのであり、自ら“雑多性”増大の牽引役を担っていくことを期待したい。

そして『BNA』へ

 『BNA』の第1話放送をご覧になった方はおわかりと思うが、その独特のスピード感や大胆な構図など、紛れもない“TRIGGER汁”全開の痛快ファンタジーだ。“異種族間の対立”というテーマは、海外で極めて高い評価を得た『プロメア』(2019年)のそれを継承しており、吉成×中島×TRIGGERが「+Ultra」の海外訴求戦略に共鳴していることが窺える。

 しかしこの作品がとりわけ興味深いのは、先述したような“雑多性”が作品内部で主題化されているように思える点だ。第1話の「祭り」のシーンが象徴的に表していたように、「アニマシティ」には個性の異なる様々な「獣人」が共存し、その生活圏そのものが文字通り祝祭的な様相を呈している。“人/獣人”という共存・対立構図の中に、さらに“雑多な獣人どうしの共存”という状況が織り込まれているわけだ(その意味では『BEASTARS』ともテーマを共有している)。

 “雑多性”は「アニマシティ」の街並みにも表れている。監督の吉成は「よく見るとごちゃごちゃした汚いところがあるけれど、あくまでも見え方としては女の子が憧れそうな都市」(『「BNA ビー・エヌ・エー」公式スターターガイドブック』、TOHO animation、2020年、p.26)を目指したそうだが、確かに未来都市のような街並みの裏に寂れた裏路地や貧民窟が見られるなど、統一感というよりは乱雑さを強調した外観になっている。

 この都市のビジュアルを手掛けたのは、本作のコンセプトアートを担当したGenice Chanだ。とりわけその独特な色彩感覚は本作のビジュアルの方向性を決定づけており、脚本の中島は「日本人にはちょっと思いつかないようなロジックの、独特な色遣いになっていて、それがすごくいいんですね」と高く評価している(同上、p.30)。このように海外スタッフのセンスを取り入れたことも、本作の“雑多性”を増すことに一役買っている。

 さらに、オオカミ=大神、タヌキ=メタモルフォーゼという日本の民間伝承的なコードがさりげなく挿入されている点も面白い。『もののけ姫』(1997年)や『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)などに触れ、それらが持つコンテクストに知悉した世界のOTAKUたちが、これらの“雑多”な要素にどう反応してくるか。実に楽しみだ。

■原嶋修司
アニメを愛し、アニメについて語ることを愛するアニメブロガー。予備校講師。作品評や関連書籍のレビューを中心とするブログ『アニ録ブログ』を運営。Twitter: @alter_Ego_3_02

■放送情報
『BNA ビー・エヌ・エー』
フジテレビほかにて、毎週水曜24:55~25:25から順次放送
Netflixにて1話~6話独占先行配信中
声の出演:諸星すみれ、細谷佳正、長縄まりあ、石川界人、高島雅羅、村瀬迪与、乃村健次、中博史、家中宏、斉藤貴美子、多田野曜平、大塚芳忠
監督: 吉成曜
シリーズ構成: 中島かずき
コンセプトアート:Genice Chan
キャラクターデザイン:芳垣祐介
総作画監督:竹田直樹
美術監督:野村正信
色彩設計:垣田由紀子
撮影監督:設楽希
編集:坪根健太郎
音楽: mabanua
アニメーション制作:TRIGGER
(c)2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

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