鉄男と裕一をつなぐ“詩と音楽” 『エール』別れでは切り離せない結びつき

 鉄男(込江大牙)が落とした和歌集を届けに来た裕一(石田星空)は、鉄男が父親の善治(山本浩司)に殴られる場面に遭遇する。NHKの連続テレビ小説『エール』が第2週の初日を迎え、詩と音楽で通じ合う裕一と鉄男の姿が描かれた。

 鉄男は、父親に殴られる場面を見られて苛立ち、裕一を乱暴に追い返した。とんでもないものを見てしまったと、雨の中びしょ濡れで自宅に帰った裕一を家族は心配する。しかし翌朝、彼は裕一の前に現れると「俺は筋を通す男だ」と言い、頭を下げる。「すまねえ」と謝る鉄男の姿に裕一は驚くが、笑顔で彼を受け入れた。すると、鉄男も初めて笑顔を見せる。

 裕一は鉄男の詩を愛する心を知る。裕一は鉄男が書いた詩を絶賛し、「大将、詩人になれるよ」と目を輝かせた。しかし、鉄男はそんな裕一の言葉を一蹴する。家庭環境が異なる二人。「俺は詩を書くのが好きだ。でもそれじゃ飯は食えねえ」と鉄男は言った。それでも裕一は、鉄男に詩を続けてほしいと思ったのだろう。「あの詩に曲をつけたい」と伝え、曲をつけたら持って行くと約束した。

 鉄男を演じる込江の繊細な表情と、裕一を演じる石田の純粋無垢な表情が、彼らの詩と音楽へのひたむきさを感じさせる。裕一は音楽に出会い、勇気を得た。鉄男は詩を愛しているが、家庭環境の厳しさから、それにしがみつく一歩を踏み出せずにいる。しかし、裕一から「あの詩に曲をつけたい」と言われたとき、自分の詩が人に愛されていることを知ったはずだ。去り際、彼の表情は決して明るいものではなかったが、希望を感じているような表情にも見えた。

 だが、善治が家族を連れて夜逃げしたことで、裕一は鉄男に曲を渡すことができなかった。夜逃げの道中、鉄男は藤堂(森山直太朗)の言葉を思い出す。鉄男の才能に気づいていた藤堂は「頼ることは恥ずかしいことじゃない。自分の才能から逃げるな。一生後悔するぞ」と声をかけ、新聞記者の名刺を手渡していた。鉄男はその名刺をじっと見つめる。

 裕一は鉄男のために歌い、静かに涙を流した。

 裕一が励まされた「得意なことにしがみつけば必ず道は開く」という言葉は、きっと鉄男にも響いている。彼らがヒット曲の数々を生むのはずっと先の話だが、詩と音楽で通じ合った二人が交わした時間が彼らを結び続ける。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
NHK総合にて、3月30日(月)より放送開始
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

関連記事