『ミッドサマー』など話題作を続々輩出 いま観たいA24作品5タイトルをピックアップ

いま観たいA24作品をピックアップ

『ムーンライト』

 バリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』は、A24にアカデミー賞作品賞をもたらした記念すべき映画だ。

 主人公は、フロリダ州マイアミの治安の悪い地域リバティ・シティーに生まれ育っていく、あるアフリカ系アメリカ人シャロン。その孤独な日々と、大切な人たちとの出会いが、3つの時代に分けて描かれていく。

 興味深いのは、見たことのないような繊細な色彩が広がる、本作の美しい映像世界だ。自らもアフリカ系であるジェンキンス監督は、これまでの映画における映像の色彩や照明の明るさは、白人を撮るためのものだったと語っている。本作はそれを黒人の肌の色のトーンに合わせることで、黒人の本来持っている肌の質感が際立つのだという。

 この色が示すのは、それだけではない。思春期に自分がゲイであることを理解したシャロンは、マイアミの黒人社会のなかでもマイノリティとして迫害されかねない存在だ。そんな彼は、コミュニティのなかで生き抜くため、身体を鍛えて“いかつい”見た目になり、男らしさを演出するようになる。だがシャロンは、夜の優しい“ムーンライト”の光のなかでなら、本来の自分の姿に戻ることができるのだ。

 その映像は、アメリカ社会に根強く存在する差別の問題を浮かび上がらせ、同時に自分らしくあることの大事さを表現する。繊細な色彩が、テーマそのものにも関わってくる。このように美しさと切実さが深く絡み合った作品が、かつてあっただろうか。ジェンキンス監督の才能と、優しく強いまなざしが、本作の隅々にまで行き届いている傑作だ。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

 性的マイノリティや不法移民など、アメリカの片隅で顧みられずに生きる人々を描いてきたショーン・ベイカー監督。彼がここで描くのは、知られざるアメリカの貧困家庭の実態だ。

 シングルマザーのヘイリー(ブリア・ヴィネイト)と、6歳の娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)は、フロリダの大テーマパークにほど近い、安モーテルの一室で生活している。

 一般的なアパートに住むよりも明らかに高額の支払いをしなければならないが、生活困窮者にとって入居審査をパスしたり保証金を納めることは難しく、結局はその日ぐらしの生活となり、貧しさから抜け出せなくなってしまう。格差社会が深刻化し続けているアメリカには、実際にそんな生活を余儀なくされている人々が少なくないのだ。

 仲の良い母娘は、「夢と魔法の王国」と呼ばれるテーマパークのすぐ近くで、厳しい現実の波にさらされ、追いつめられていく。このような皮肉な状況は、世界一の経済大国でありながら、日々の生活すら困難な多くの貧困者を抱える、病的なアメリカ社会の縮図でもある。幼いムーニーが、貧困の現場から、テーマパークの花火を眺めるシーンには胸を突かれる。彼女はすぐそばにいながら、決して届かないものを見ているのだ。

 そんないびつな現状を、実際にそこで生活する人々を映し出すなど、圧倒的なリアリティをもって映像化した本作は、誰もが予想をしなかった、魔法のような結末へとジャンプする。

『ヘレディタリー/継承』

 『ミッドサマー』も話題になった、アリ・アスター監督の長編デビュー作品。「あまりにも怖い」、「どうかしてる」などの声が相次ぐほど、狂気を感じられる描写に観客は騒然となった。

 なんといっても圧倒されるのは、誰もが心の奥に持っているような、“いやなもの”を根源的な部分で描くことのできる才能だ。

 主に登場するのは、祖母を失ったばかりの、両親と兄妹の4人で構成される、一つの家族。悲しみを乗り越えようとする一家に起こるのは、様々な超常現象。それらは次第に、一つの像を結びはじめていく……。

 通常のホラー映画なら、外部からやってくる脅威と家族が戦うという展開になりそうなものだが、ここでは内部から食い破られていくような、内側の恐怖が映し出されていく。

 家族に対する“疎ましい”という気持ちや、逆に自分自身が“家族から愛されていない”という不安。それは、多かれ少なかれ誰もが心のなかに持っていて、それが社会的にタブーだとされているからこそ、できれば気づきたくない感情だといえよう。それを本作は、不穏でまがまがしいイメージによって見せつけてくるのだ。

 さらに興味深いのは、トニ・コレット演じる母親が、自分の内面の問題を見つめるために一家のミニチュア模型を製作している部分だ。製作者と模型との関係は、アスター監督と本作との関係を暗示しているようにも感じられる。

 アスター監督によると、本作は彼自身の問題が投影されているのだという。ときに模型と家庭の区別がつかなくなるような本作の演出は、映画とわれわれの現実を隔てる境界をも曖昧なものにしていく。

 真に怖ろしいと思える部分がいくつも描かれる本作だからこそ、ホラー映画が陳腐なものだと思われるようになってきた現代の観客を震え上がらせるものになったといえる。

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