『スカーレット』喜美子が陶芸の楽しさを伝える ものづくりの原点にある草間流柔道

『スカーレット』喜美子の原点、草間流柔道

 信作(林遣都)から頼まれて、一日陶芸体験教室を行うことになった喜美子(戸田恵梨香)。ピンチヒッターとして登板したものの、時間になっても観光客はやって来ない。信作の「一人が言い出したら、ほな私も私も言い出して、永山さんとこの工場見学の方行ってしもうて」という言葉を聞いて片づけを始めた喜美子の前に、工場見学をやめた若い女性と子連れのお母さんがやってくる。

 『スカーレット』(NHK総合)第128話で、喜美子が陶芸教室を引き受けたのは「信作の仕事を応援させてもらう」ためだが、真意は別のところにもあった。喜美子は「誰かの人生を思うことで自分の人生も豊かになる」という小池アンリ(烏丸せつこ)の言葉を引用して、「訪れた人と、陶芸を通してお互いの人生を豊かにし合える時間にできたらええなあ」と照子(大島優子)に語る。

 喜美子が陶芸を志したきっかけは八郎(松下洸平)だった。真剣に陶芸に打ち込む八郎や絵付の師匠である深野(イッセー尾形)の人柄に惹かれて陶芸の道に入った縁を、「人に惹かれて、人に導かれて、今の自分がある」と喜美子は振り返る。八郎や深野に触発されることで、自分の中にある陶芸家としての才能が開花したことを知っている喜美子は、今度は自身の姿を通して陶芸の楽しさを伝えようとしていた。

 ろくろを間に挟んで仕事の話をしたり、子どもも一緒に楽しめる陶芸教室は、仕事と家庭を両立してきた喜美子だからこそできること。作ろうとしているのも生活の一部になるもので、「水曜の朝がいちばん嫌い」と話す参加者に「この湯飲みでおいしいお茶飲んでから会社行き」と声をかける。ちょっとした気持ちのやり取りが作品に影響することを喜美子は熟知している。

 陶芸に対する思いの強さゆえに周りの人を傷つけてしまったこともあるが、理想の色を求めて穴窯に挑戦していた頃と比べると、今の喜美子は肩の力が抜けてリラックスしているように見える。第119話で、辞めさせたかつての弟子たちに穴窯に関するアドバイスをしたように、自身が得たものを他者と共有しようとする姿には、新しい場所に踏み出した確かな実感があった。

 喜美子のものづくりに対する考えには、人に対する敬意が根底にある。その元をたどると草間流柔道に行き着くことが、信作と町役場の職員・鳥居(山口勝成)の会話から明らかになった。作品の価値を理解しない鳥居に「分からんからいうて否定するな」と言い聞かせる信作の真摯さは、喜美子の作陶に対する姿勢にも通じるものだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
2019年9月30日(月)〜2020年3月28日(土)放送予定(全150回)
出演:戸田恵梨香、大島優子、林遣都、松下洸平、黒島結菜、伊藤健太郎、福田麻由子、マギー、財前直見、稲垣吾郎ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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