『嘘八百 京町ロワイヤル』は、新世代の『ミナミの帝王』!? 豪華役者陣と丁寧な脚本が生んだ心地よさ

 日本には『ミナミの帝王』というジャンルがある。『ミナミの帝王』といえば、ミナミの鬼と呼ばれる金貸しの萬田銀次郎(竹内力、千原ジュニアなど)が、あれやこれやあった末に、悪いやつを叩き潰す映画だ。いわゆる騙し騙されのコンゲームをベースに、負債者の人情劇に、萬田はんが悪いヤツをブッ潰す勧善懲悪、お茶の間で見る芸人さんの出演、金融に関する専門知識(それも、時にはテロップで説明するほどの情報量の)、これらの要素で『ミナミの帝王』は構成されている。そして中井貴一と佐々木蔵之介のW主演で贈る『嘘八百』(2018年)は、いわば古美術版の『ミナミの帝王』であり、今回公開される『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020年)は、さらにその傾向が強くなっている。

 物を見る目は確かだが、イマイチ冴えない日々を送る骨董屋の小池則夫(中井貴一)は、腕は一級だが同じく冴えない日々を送る陶芸家の野田佐輔(佐々木蔵之介)と出会う。1作目は、何だかんだの末に手を組んだ2人が、則夫は達者な口を、佐輔は陶芸家としての腕を活かし、悪徳骨董屋に贋作を掴ませて一儲けする物語だった。そんな前作は主人公の身内間での出し抜き合いもあり、コンゲームとしての色が強かったが、本作は人情成分が大幅アップ。悪徳骨董屋(加藤雅也)との騙し合いを話の本筋に据えつつ、ワケありのヒロイン・橘志野(広末涼子)と、人生の岐路に立つ若者・牧野慶太(山田裕貴)が登場し、則夫と佐輔はそれぞれのスキルで2人の人生と向き合うことになる。

 本作の最大の魅力は、やはり役者陣だろう。W主演の中井貴一と佐々木蔵之介は安心安定のクオリティ。この2人が同じ画面に収まるだけで「男前やなァ」とため息が出るし、竹内力の萬田銀次郎に匹敵する少々の無理が引っ込む説得力が生じている。特に中井貴一は、口が達者な古美術屋ということで、NHK『サラメシ』でおなじみのトークスキルで魅せてくれる。2人の関係性が完成しているので、前作のような化かし合いはないが、それでも2人が和気あいあいとしているだけで楽しい(特に最後の〆方は『MajiでKoiする5秒前』が流れ出すかと思った)。今回から参戦の広末涼子も安心安定だ。絵に描いたようなミステリアスな女性役だが、彼女の浮世離れした感じがマンガっぽいキャラクターにうまくハマっている。山田裕貴も出番ではキッチリ見せてくれるし、佐々木蔵之介の妻を演じる友近は、見事なまでに友近だ。他にも“アホの坂田”こと坂田利夫、ドランクドラゴンの塚地武雅なども出演していて、これがまたイイ味を出している。

 こうしたスキルのある俳優たちに加え、ちょうどいい塩梅の人情劇的な脚本も心地よい。辛酸をなめてきた中年男性の佐輔が、大人たちに騙されている慶太に若い頃の自分を重ねるくだりや、則夫が志野の本心に迫るあたりなど、いくらでもクドく描けるはずだが、本作はサラリと流していく。コメディというジャンルに忠実であるため、あくまでテンポを重視しているのだろう。このちょうどいい塩梅とテンポ感がイイ意味で『ミナミの帝王』っぽさを強める。たとえば、『ミナミの帝王』は基本的に経済的に追い詰められた人間たちの物語だが、彼ら彼女らが『万引き家族』(2018年)まで深刻になることはない。これは『ミナミの帝王』が『ミナミの帝王』だからだ。本作も同様で、いくらでも深刻にできるポイントをあえて踏み込まず、あくまで軽妙な雰囲気を保ったまま最後まで見せ切る。このバランス感覚が好みだった。もちろん題材が題材だけに、美術周りはかなりこだわっている。必要なものを必要な場所に置く。まさに適材適所だ。

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