『風の電話』インタビュー

モトーラ世理奈×諏訪敦彦監督が振り返る、『風の電話』撮影で出会った“震災後の日本の家族”

 モトーラ世理奈が主演を務める映画『風の電話』。本作のモチーフになった「風の電話」は、岩手県大槌町に実在し、大切な人と想いをつなぐ電話として2011年に設置された無線の黒電話。東日本大震災以降、今はもう会えない家族や友人と話すため、3万人にものぼる人々が訪れている。

 モトーラ世理奈演じるハルは、東日本大震災で家族を亡くし、広島で叔母(渡辺真起子)とともに暮らしているが、ある出来事をきっかけに故郷の岩手県大槌町へと向かい、そのヒッチハイクでの道中に様々な人と出会い、「風の電話」へと辿り着くことになる。メガホンを取った諏訪敦彦監督は、2005年の『不完全なふたり』からフランスでの映画製作が続いていたが、本作で『H story』以来18年ぶりに日本映画を手がけることとなった。

 オーディションで主演に選ばれたモトーラ世理奈は、まだ10代ながら自分以外の家族を震災で亡くした少女という複雑な役どころに挑むことになった。監督は、彼女のどんなところに惹かれたのだろうか。即興的な演出方法で映画を撮る諏訪監督だからこそ完成した本作の裏側について、話を聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

諏訪「彼女を撮っているだけで映画ができるという確信があった」

ーー主人公のハル役はオーディションで選ばれたということですが、諏訪監督はモトーラさんのどんなところに惹かれたのでしょうか?

諏訪敦彦(以下、諏訪):オーディションでは何人もの方とお会いして、芝居が達者な人もたくさんいましたが、そもそも、モトーラさんは他の方とまったく違いました。何が違うか言葉にするのはなかなか難しいんですが、最初に会った時にこの人しかいないと。彼女を撮っているだけで映画ができるんだという確信がありました。モトーラさんはその場にいる居方や佇まいをずっと見ていられる人で、これは映画にとってはすごく得難いことです。僕は芝居が上手いとか下手とかあまり考えたことがなくて、どんな人でもその人なりに演技ができると思うんですが、モトーラさんはやっぱり何か違う。とにかく視線を引きつけてしまう人です。

ーーモトーラさんは台本を読んでオーディションを受けた時に何を感じましたか?

モトーラ世理奈(以下、モトーラ):オーディションの前に台本をいただいて、一回読んでみた時に、悲しい気持ちが溢れて読み進められませんでした。それで、やりたくないなぁって思っていました……(笑)。

諏訪:オーディション行きたくないなって?(笑)。

モトーラ:はい……(笑)。でも役が決まった時は嬉しかったです。オーディションが2回あったのですが、2回目のオーディションのあとから、この役やりたいなとはっきりと思い始めました。

諏訪:1回目は台本に基づいてそのシーンを演じてもらったのですが、2回目では、簡単な設定だけで即興的にやってもらいました。

ーーオーディションをやった当時は、ハルという主人公については、どこまで人物像が決まっていたのでしょうか?

諏訪:この子は本当に傷ついていて、世界に対して自分を閉ざしている、石のように固まってしまっている。僕もそういうイメージくらいしか持っておらず、オーディションを受けてもらう方にも、細かい部分は特に伝えていませんでした。僕の場合はやはり「誰が演じるか」というのがとても重要で、その具体的な存在があってから、初めてカメラが動き出していく感じです。

ーーモトーラさんに主役が決まってから具体化していったんですね。

諏訪:でも、モトーラさんにも、こうしてほしいという細かい部分は言った記憶がないですね。ただ、この子は叔母さんにハグしてもらわなきゃいけない、誰かに手を握っていてもらわないと、自分を保てない存在なんだというイメージは伝えました。叔母に「ハルちゃんおはよう」と言われても、返事ができない。大槌に向かうのには、そこからハルがだんだん言葉を話していくプロセスがあったように思います。

モトーラ「ハルと一緒に物語が進むように旅している感覚」

ーー大槌へと向かう中、西島秀俊さんや渡辺真起子さんなど、諏訪監督の作品の常連の俳優たちが、ハルを見守る大人として登場しますね。

諏訪:最初はいろんなアイデアがあったのですが、最終的に彼らに出演してもらうことになりました。久しぶりに日本で映画を撮るということで、この作品は僕にとって「自分の故郷にもう1回帰ってくる」という思いがありました。それはハルと重なる部分かもしれません。だから、昔の家族にいてもらいたいというか(笑)、彼らにハルを見守ってほしいと。

ーーモトーラさんは今までは同世代との共演が多かったのではないかと思いますが、今回何か意識したことはありましたか?

モトーラ:あまりそういうことはなかったと思います。

諏訪:むしろみんなが意識していたんじゃないですかね、モトーラさんは最初から貫禄がありました(笑)。堂々としていたと思いますよ。

モトーラ:私としては、本当にハルと一緒に物語が進むように旅しているという感覚でした。共演者だけではなく、スタッフさんや協力してくれたみなさんなども含めていろんな人と出会っていくような撮影だったと思います。

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