2019年の年間ベスト企画

年末企画:田幸和歌子の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 作り手が“数字”から解放されたかのような意欲作

 作品単体では、「連ドラの底力」を感じさせてくれた『凪のお暇』と、いつまでも観ていられる温かさがあった『きのう何食べた?』を同率1位にしたい。

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 前者は、ドラマを録画で見る人も多く、配信ドラマやYouTubeなどの影響もある現代で、テレビにくぎ付けにさせる強さがあった。スマホが普及して以降、ドラマを観るのが面倒くさいと言う人は多い。毎週あるいは毎日同じ時間にテレビに向かう行為を「拘束される」と感じたり、窮屈に感じたりする人が多いからだ。まして退屈するとすぐスマホを手にしたくなる時代、1時間ドラマをじっくり観させるのは至難の業だろう。

 そんな中、奇抜さや刺激の強さではなく、優れた脚本・演出・キャスティングという正統派の作り方で、次回が来るまで待つ時間を「長い」と感じさせ、放送の1時間を「短い」と感じさせた『凪のお暇』は、改めて連ドラならではの魅力を思い出させてくれる作品だった。

 オープニングの作り方や入るタイミング、展開のテンポの良さ、シビアな展開でも、しんどくなりすぎず「脱落者」を出さない緩急の付け方、爽快感を与える画作りや音楽の心地よさなど、今の時代のスピードに合わせて計算されている「仕掛け」は多数あったはず。

(c)「きのう何食べた?正月スペシャル 2020」製作委員会

 一方、『きのう何食べた?』をずっと観ていられる・観ていたいと感じるのは、「ほどよい温度」と「心地良い距離感」が流れているからだろう。それは、同性カップルというだけでなく、年齢や経験を重ねてきたことによってたどり着いた、恋愛観・仕事観・生き方の心地よい答えが、努力の上に成り立っているひとときの「食事」に凝縮されているから。

 ちなみに、コンプライアンスの関係で過激な表現などは避けることが多くなっていた昨今だが、今年は『あなたの番です』『ボイス 110緊急指令室』(ともに日本テレビ系)、『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系)など、暴力シーンやえぐい展開などがシビアに描かれる作品も多かった。

 こうした流れも、新しい時代へ向けて、ドラマのフィクションとしての表現の自由度が再び高まりつつある傾向なのかもしれない。

TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム

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■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『きのう何食べた?お正月スペシャル』
テレビ東京にて、2020年1月1日(水・祝)22:00〜23:30放送
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
出演:西島秀俊、内野聖陽、田中美佐子、マキタスポーツ、山本耕史、磯村勇斗、高泉淳子、チャンカワイ、中村ゆりか、松山愛里、椿弓里奈、山本楽、唯野未歩子、奥貫薫、田山涼成、梶芽衣子
OPテーマ:「帰り道」OAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)<NOFRAMES/TOY’S FACTORY>
EDテーマ:「iをyou」フレンズ<ソニー・ミュージックレーベルズ>
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、野尻克己、片桐健滋
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:佐藤敦、瀬戸麻理子
制作:テレビ東京/エイベックス・ピクチャーズ
製作著作:「きのう何食べた?正月スペシャル 2020」製作委員会
(c)「きのう何食べた?正月スペシャル 2020」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/
公式Twitter:https://twitter.com/tx_nanitabe

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