【ネタバレあり】前作から驚くべき進歩を果たした『アナと雪の女王2』、そのすごさを徹底解説

 そして、『アナと雪の女王』で忘れてはならないのは、日本では「ありのままで」と訳された、楽曲「レット・イット・ゴー」の爆発的カタルシスであろう。そこにあるのは、世界に対する失望と怒りである。みんなが幸せだと信じている価値観に背を向け、自分らしく生きたいと願うエルサの姿は、最終的には妹アナの献身と理解によってほだされ、社会との歩み寄りを見せてゆくことになるが、ここにあるネガティブさをともなった強い感情こそが、普段から意識的にも無意識的にも社会の抑圧にさらされている、多くの女性の琴線に触れたのではないだろうか。

 このように、観客の様々な価値観に呼応し、部分的には奥行きもあるつくりが、公開年である2013年から2014年にかけての当時の世の中に、驚異的にフィットすることになった、主たる要因だといえるだろう。

 さて、続編である本作『アナと雪の女王2』は、どうだったのか。

 前作における王子様の裏切りを受けて、同様に衝撃的だったのは、舞台となるアレンデール王国の、血塗られた負の歴史を描いたということである。

 武力をもって、長くその土地に住む先住民を迫害して、領地や権力を拡大していったという歴史は、日本を含め、イスラエルや中国など世界中で起こっていることだ。アメリカでも、かつて入植者たちが先住民と戦い、様々なものを奪い追いやったことで、国家を作り上げたという、民族的な過去がある。本作は、王国の裏に隠された欺瞞や罪をあぶり出したことで、そのなかで裕福な生活を享受してきたエルサやアナを絶望の底に突き落とす。

 そう、新たに描かれる、真実とルーツを探し求める旅のなかで、彼女たちはおそろしい罪を負った国を引き継いでいるという事実を明らかにしてしまったのである。だがそれは、王族であるということを、とくに深く考えてこなかった前作に比べると、驚異的な飛躍である。まさか、ここまでやるとは思わなかった。この点では、本作は圧倒的な進歩を見せている。

 そして、その事実に打ちひしがれたうえで、“自分のやれることをやろう”と立ち上がり、過去の過ちと向き合い、ごまかさずに具体的な行動を起こす彼女たちの姿は感動的だ。これは、いま世界で起こっている紛争や差別などの様々な問題について、解決に至る道筋を作るためには、その背景となっている歴史を正しく理解しなければならないということを示唆している。

 もう一つ、注目したいのは、エルサとアナの幸福の対比である。アナは、最終的に大きな責任を負う存在となるが、基本的には幸せな結婚に憧れるキャラクターである。対して、エルサの幸せとは何なのか。

 エルサの恋愛については、前作の時点でパートナーが描かれなかったことから、性的指向について一部のファンが、「同性が好きなのでは」と噂をしたり、多様的な価値観を広める上で、性的なマイノリティであるということを具体的に描くべきだという声があがってもいた。もともと、人からおそれられる“魔法の力”を持ったエルサは、理解のない社会で生きるマイノリティの象徴という見方もされてきている。

 その意味でいうと、本作でエルサが惹かれた謎の歌声の先には、彼女が求める女性が存在しているのではという予感を、作り手はわざと醸成させていたように思える。しかし、たどり着いたところにあったものを考えると、エルサは“アセクシャル”、つまり、他者に対する性的な欲求を持たない存在であるという解釈が、一応は成り立つだろう。

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