『真実』宮本信子×宮崎あおい×是枝裕和監督が語り合う、吹替版制作の裏側と初挑戦で感じたこと
カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュの初共演作『真実』が10月11日より公開中だ。『万引き家族』で日本映画21年ぶりの快挙となるカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝監督最新作となる本作は、国民的大女優ファビエンヌが『真実』というタイトルの自伝本を発表したことから、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く真実が炙り出されていく模様を描いた人間ドラマだ。
今回リアルサウンド映画部では、本作の吹替版で、カトリーヌ・ドヌーヴ演じるファビエンヌの声を担当した宮本信子、ジュリエット・ビノシュ演じるリュミールの声を担当した宮崎あおい、そして監督を務めた是枝裕和の鼎談を行い、吹替版制作の背景から、キャスティングや役作りの裏側、さらにはフランスと日本との映画制作の違いについて、語り合ってもらった。
宮本「『やっていいものかしら……』と悩みました」
ーー今回の吹替版の制作は配給サイドからの提案だったそうですが、最初に話を聞いた時はどう思いましたか?
是枝裕和(以下、是枝):最初は、「吹替版か。あまり観る習慣はないぞ」と。だけど、自分が最初に書いた脚本がフランス語になって、また日本語になって戻ってくるプロセスがややレアケースなので、やってみようかなという気持ちになりました。
ーー確かになかなかないケースですよね。
是枝:オリジナルは、字幕も全部自分でやったんですけど、完璧には納得できていないんです(笑)。これはどうしようもないことなんだけど、文字数の問題で、微妙なニュアンスが消えていく感じがどうしてもあって。結果的に、宮本さんと宮崎さんがとてもハマって、その言葉の微妙なニュアンスが復活したので、今回は間違いなく吹替版を作ってよかったと思います。
ーーキャスティングは是枝監督のリクエストだったそうですね。なぜカトリーヌ・ドヌーヴが演じたファビエンヌの声を宮本信子さんに?
是枝:宮本さんと直接お話ししたのは、3年前の伊丹十三賞の授賞式の時が最初だったんですけど……説明するのは難しいですね(笑)。きっと、本人の肉声を直接聞いていないと、声優のキャスティングは判断しようがないと思う。でも、宮本さんはすぐに浮かびました。ドヌーヴさんにハマるというよりかは、宮本さんの凛とした声と、活舌の良さ、軽やかさやスピード感も含めて、宮本さんが引き受けてくれればいけると思って。ナレーションをされていた東海テレビのドキュメンタリーも観ていたので、チャンスはあるかもしれないと思って、お話しました。
宮本信子(以下、宮本):お話をいただいた時は驚きました。いつも海外の映画は俳優の声が聴きたいので字幕で観ますし、吹き替え声優はやったこともなかったですし。もちろん自信もなかったので、「やっていいものかしら……」と悩みました。でも、いま監督がおっしゃったように、3年前に伊丹十三賞を受賞していただいているご縁もあったので、「やらせていただきます」とお返事をさせていただきました。
ーー是枝監督の作品だったのも大きかったと。
宮本:そうですね。でも、完成している映画に私が声だけ入れたファビエンヌが、果たしてどういう風に着地するのかは、やってみないとわからなくて……。今回は「受けて立ちます、立たせてください!」という感じでした(笑)。
ーーリュミールの吹き替えを担当された宮崎あおいさんは、ジュリエット・ビノシュとは20歳以上年が離れていますが、このキャスティングはどのような理由で?
是枝:あおいちゃんは、少年からおばあちゃんの役までできる声の持ち主だから(笑)。声のお仕事も過去に一度させていただいていますし、『おおかみこどもの雨と雪』の声がすごく印象に残っていて、表現力が豊かだなと思っていたので、お声掛けしました。
宮崎あおい(以下、宮崎):私は、是枝さんの作品にこういう形で関われるのは、とても面白いというか、嬉しいなという気持ちが一番にあったので、すぐ「やりたいです」とお返事をさせていただきました。でも、吹替版の台本を見るのは初めてで、家で練習してみるんですけど、全然上手くいかなくて、「これはどうしたらいいんだろう……」と。「引き受けさせていただいたけど、大丈夫かな、私」という気持ちで、声撮りの日まで過ごしました。
ーー宮本さんと宮崎さんは『真実』という作品自体にはどのような印象を受けましたか?
宮本:未だに何が真実かどうかわからないですけど、すごく面白かったです。ある人が見たら真実だけど、また違う人から見たら真実ではなくなってくる。真実はひとつではないということ、いろんな真実の見方があって、それがものすごく面白いと私は思いました。
宮崎:私は、同性同士のお芝居のやり取りを見るのが、いますごく好きなんです。だから、ドヌーヴさんとビノシュさんのお芝居の掛け合いを見ているだけで、幸福感がありました。また、今回自分が吹き替えをやらせていただくにあたり、何回も作品を観れたことによって、お二人のちょっとした表情の変化にも気づけました。それと、男性たちの立ち位置、自由奔放な女性とはまた違う存在としての男性の描き方も、私はとても好きでした。人間関係のバランスがとても面白かったです。