『真実』ジュリエット・ビノシュが考える、是枝裕和監督の優しさの謎 黒沢清監督へのラブコールも
是枝裕和監督最新作『真実』が10月11日より全国公開中だ。『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝監督にとって初の国際共同製作作品となる本作は、国民的大女優が発表した自伝『真実』を巡る家族の物語だ。
今回リアルサウンド映画部では、カトリーヌ・ドヌーヴが演じる国民的大女優ファビエンヌの娘、リュミールを演じたジュリエット・ビノシュにインタビュー。レオス・カラックス、クシシュトフ・キェシロフスキ、オリヴィエ・アサイヤス、クレール・ドゥニら名だたる名監督たちとともに名作を生み出してきた彼女は、なぜ是枝監督作品への出演を望んだのかーー。
「是枝さんは、物事をいろんな視点から見ている」
ーー2011年に日本で行われた是枝監督とのトークイベントで「一緒に映画を作りましょう」という話をされていたのが、今回の『真実』で実現したかたちになりましたが、なぜ是枝監督の作品に出たいと思っていたのでしょうか?
ジュリエット・ビノシュ(以下、ビノシュ):初めて観た是枝さんの作品は『誰も知らない』でした。彼の作品の脚本が面白いと思うのは、物事をいろんな視点から見ていること。白か黒かで決めつけていないところにあります。今回の作品は『真実』というタイトルがそのことを表していると思います。人によって、何が“真実”なのかは異なってくる。それを軽いタッチで描きつつも、“真実”を巡るドラマティックな話に落とし込んでいます。そして、それぞれの人物の過去や罪悪感との関係、さらに言えば、人の感情は変わっていくものだということも同時に描いています。母ファビエンヌに対して、裏切られたと思って最初は怒っていたリュミエールが、最後には彼女を受けて入れて、愛することを学ぶ。そのような深い脚本に惹かれるんです。
ーー名だたる映画監督たちとともに作品を作ってきた中で、是枝監督の印象はどのようなものでしたか?
ビノシュ:とても印象的だったのが、子役が現場に来ると、ものすごくエキサイティングしていたこと。子供が現れると、映画のようなシリアスな部分が薄れて、まるで遊びのような、面白い部分が溢れ出てくる感じがしました。是枝さんはとても優しい人。その優しさはどこからくるのでしょう……。もしかしたらそれは、彼が抱いているノスタルジーからくる優しさなのかもしれないし、何かを恐れていることによって発生する優しさなのかもしれない。あるいは、自分の考えを表明するに至るまでのリズムが私とは違うので、それによって生まれてくる優しさなのかもしれません。
ーー自分の考えを表明するに至るまでのリズムが違ったとは、具体的にどういうことでしょう?
ビノシュ:物事を認識をして、それを自分の考えとして表明するまでのリズムが、明らかに他の映画作家とは違い、少し異質だなと感じたことがあったんです。例えば、ワンテイク撮った後に、そのテイクを撮り直すか撮り直さないかを、彼はじっくり時間をかけて考えていました。もちろんそこには通訳を介することによって発生するタイムラグもあるのですが、ゆっくり撮っていくことに関して、私はある時、是枝さんに意見を言ったことがありました。「役者はそんなに熟考しないで反射的にやっていくものだから、テイク2を撮るのであれば、早く撮ってほしい」と。そうしたら、テイク4ぐらいまで撮ってから、一回止めて考えるようにしてくれました。
ーー考えてから撮るのではなく、撮ってから考えると。
ビノシュ:正直、話す言語が違うため、通訳という第三者がコミュニケーションの間に入ってくるフラストレーションは少しありました。2人だけでダイレクトに話すのと、誰かが入ってコミュニケーションを取るのは、やはり大きな距離がありますから。ですが、是枝さんは、人との接し方に軽やかさがあるんです。話している相手に、きちんと存在するスペースを与えてくれる。それによって、相手も表現することができる。今回は通訳を介したコミュニケーションでしたが、それによって慣れてきた部分もあるので、今後、2回目、3回目とまた是枝さんとお仕事ができれば、もっと近しくなって、ともに遠くまでいけるのではないかと感じています。