「ジョーカーは“混乱”や“無秩序”を体現」 騒ぎ続くアメリカでJ・フェニックスや監督らが心中明かす

『ジョーカー』J・フェニックスや監督らが語る

 今作でトッド監督は、これまで描かれた「ジョーカー」のストーリーとキャラクターを基盤にしながらも、新たな進路に向かって舵を取った。「ここ15~20年間、映画界を支配してきた漫画の一つのキャラクターを通して、それだけを深く研究してみたらどうか? と思ったのが始まりだった。そして、僕にとって最も理にかなっていたキャラクターが、ジョーカーだった。なぜならジョーカーこそが、僕が惹かれる2つの要素、“混乱”や“無秩序”を体現してきたからだ」。そこからトッド監督は、共同脚本家スコット・シルヴァーと共に、できる限りリアルな目線で、ジョーカーを書き上げていったそうだ。

 80年代のゴッサムシティを描く上で意識したことについて、プロダクション・デザインのマーク・フリードバーグはこう話した。「この80年代のゴッサムシティこそが、アーサーの兆候や表現を強制的に生み出し、あのような行動を取らせている。僕らは彼の感情と街の不協和音による相乗効果を狙っていたんだ。アーサーのトラウマや失敗が、家の壁やストリートにいる人々にも表現されていて、それがアーサーの背景、あるいは前景としてある」。

 また、撮影監督のローレンス・シャーは、ゴッサムシティの外観を捉える上でどのようなアプローチをしたのか。「僕とトッド監督は、当時(80年代のニューヨーク)の様々な参考文献を調べた。人類学的なアプローチで街を調査したり、ニューヨークやニュージャージーの外観を調べたこともあった。歴史的な参考資料を使いながらも、映画『狼たちの午後』や『ネットワーク』の雰囲気や概念なども反映されていて、決してそれらの映画の映像や感覚に似せたものではないんだ」。

 80年代のゴッサムシティを作り出す上で重要だったのは、製作者エマ・ティリンジャー・コスコフの参加だった。トッド監督は「エマは、マーティン・スコセッシ監督の映画『アイリッシュマン』も製作していて、ある意味、彼女にはギャングスターみたいな要素がある。彼女は(これまでの仕事で)撮影に協力してくれるMTA(ニューヨークの公共輸送を運営している会社)や警官など、様々な人々と関係を築いている。彼女はスコセッシ監督とも仕事をしていて、僕はAクラスのニューヨークのクルーと仕事できたんだ」と感謝した。ちなみに、撮影はサウス・ブロンクス、ウェストサイド・ハイウェイ、チャイナタウンなどで行われ、映画内で描かれるゴッサムスクエアは、ニューアーク(ニュージャージー州の都市)で撮影された。

 過去のジョーカーというキャラクターに回帰してみると、まず特徴的なのはその笑い声だ。そこで、トッド監督は、彼がなぜあのように笑うようになったのか、追求したという。「原作では工場の化学薬品の溶液に落ちて彼は真っ白な皮膚と緑の髪になったわけだけど、現実の世界では、それは起きないと思った。それならば、大道芸人ではどうかな? と考えた。その時から、僕らが知るジョーカーを、できる限りリアルな目線で描くことが全てになった。脚本執筆中は、(ジョーカーというキャラクターを)逆行分析している感じで楽しめたよ。ジョーカーに笑いの苦しみを与えるべきか、どのような大道芸人にすべきかなど、いろいろな情報を植え付けていく中で、最終的に子供の頃のトラウマ、愛の欠乏、街がもたらす喪失感などが、このジョーカーというキャラクターを構築する大きなきっかけになっていった」と、ジョーカーを一から作り上げていく過程を説明した。

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