『IWGP』制作も手がける動画工房、地力の源泉は育成にあり? 幅広い活動とその歴史を振り返る
『ゆるゆり』で深夜アニメの雄に
実写映画やドラマで、制作会社や配給会社によって鑑賞作品を選ぶ人は多くないかもしれない。実写作品では会社名よりも監督や役者の名前の方が集客に関して圧倒的に重要だ。しかし、アニメの場合、ファンは監督や出演者やスタッフとともに、制作会社の名前で鑑賞作品を選ぶことも多い。京都アニメーションやufotableの作品だから観る、という視聴行動はアニメファンにとって珍しくない。製作会社が監督名などと同様、ブランドとして認知されているのだ。熱心な映画ファンなら近年秀作を作り続けているA24の作品なら必ず観るという人もいるかもしれないが。
動画工房も、アニメファンの信頼度の高い制作会社ブランドの一つである。1970年代に設立された老舗スタジオの一つであるが、2000年代後半からTVアニメの元請けとして頭角を現し、テン年代に入って多くのヒットアニメを制作している。
元請けとして認知される以前からその実力に定評があり、『風の谷のナウシカ』や『ハウルの動く城』などのスタジオジブリ作品や、『ポケットモンスター』などの人気TVアニメの制作協力として名を連ねていたが、動画工房の名前がブランドとしてアニメファンに広く認知されたのは、2011年放送の『ゆるゆり』だ。「ごらく部」に所属する4人の女子中学生を中心に女の子たちのまったりした日常を描くこの作品によって、動画工房は「日常もの」ジャンルのヒットメイカーとしての地位を確立してゆく。シリーズを通して安定した作画と美少女キャラの可愛さが際立っており、以降の動画工房の歩みを決定づけた作品と言えるだろう。その後、動画工房は『GJ部!』『未確認で進行形』などの日常ものから、『月刊少女野崎くん』などのラブコメを多数制作。2019年夏にも筋トレに励む女子高生たちをコミカルに描いた『ダンベル何キロ持てる?』がアニメファンの間で話題になっている。
『ダンベル何キロ持てる?』は、筆者も毎週楽しみにしていた。毎週質の高いアニメーションを維持しているし、展開のテンポが良くて引き込まれる。描くのが手間がかかりそうな真に迫った筋肉の描写が見事だ。この作品の山崎みつえ監督は、『月刊少女野崎くん』や『多田くんは恋をしない』で動画工房の作品の監督を務めているが、小気味よい作風にセンスを感じており、個人的に注目しているアニメ監督の1人だ。
『NEW GAME!』や『ゆるゆり』などを観ると生活の基本動作などの日常芝居が非常に細やかだ。「日常もの」はささいな日常にドラマを見出すジャンルだが、キャラクターの性格や感情の揺れをささいな生活感の中に滲み出すのが動画工房はとても上手い。そしてそれを毎週続けることができる安定感が、アニメファンの信頼を勝ち得た要因だろう。