『カリガリ博士』など名作の“活弁上映”も! 「武蔵野館100周年記念上映」が贈る貴重な鑑賞体験
新宿駅東口からすぐの立地にある「新宿武蔵野館」。大正時代に生まれ、2020年に100周年を迎える老舗の映画館だ。その節目を迎え、2019年6月から2020年6月までの1年間、毎月テーマに合わせた記念企画が上映されている。
「語り継がれる名作バトン」、「継承・日本の武道と中国武術」、「愛と平和のものがたり」、「実りの秋の名作食堂」と、6月からの毎月の企画のなかで様々な時代の映画作品が上映されてきた。10月、11月の企画は、「東洋の恐怖と、西洋の絶叫」、「アートのきらめき」と題し、それぞれ9作品が上映される。ここでは、そんなラインナップのなかから数作品をピックアップして、魅力を紹介していきたい。
100周年企画のなかで目玉となっているのが「活弁上映」だ。まだ映画が“活動写真”と呼ばれ、音声がついていなかった「サイレント」時代、活動弁士と呼ばれる役目を務める人物が、観客へ向けてリアルタイムで流れている上映作品の状況を解説したり、声優のように登場人物などの声をあてていくという上映形式がとられることが多かった。当時は人気活動弁士にファンがつくなど、映画の興行におけるその役割は大きかったという。12月に公開される、成田凌主演・周防正行監督の新作映画『カツベン!』によっても、活動弁士の仕事に注目が集まりそうだ。
いまはごく少なくなったものの、現役の活動弁士は存在している。今回はアメリカやフランス、イタリアでも活躍している、昨年に弁士デビュー45周年を迎えた澤登翠が“活弁”を行う。演奏を務めるのは、無声映画音楽伴奏楽団「カラード・モノトーン」。10月の活弁上映作品は、『吸血鬼ノスフェラトゥ』、11月の活弁上映作品は『カリガリ博士』・『椿姫』、『カリガリ博士』・『血と砂』が予定されているので、“活弁”未体験の観客も、是非かつての上映形式を楽しんでみてほしい。
さて、10月の上映企画「東洋の恐怖と、西洋の絶叫」の中からまず紹介したいのは、10/12(土)【活弁上映】『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922年)。ドイツ表現主義映画の巨匠、F・W・ムルナウ監督による傑作ホラーだ。吸血鬼映画の元祖に数えられる作品だが、その吸血鬼の見た目がすごい。スキンヘッドで耳が尖り、前歯や爪が異常に発達した不気味な姿で美女に襲いかかる。
広く知られている吸血鬼ドラキュラのようなダンディーさはないものの、そのネズミのような怪異な容貌は夢に出てきそうなほど特徴的。巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク監督が1979年にリメイク作品を発表し、伝説的カルト作『Begotten』を撮ったE・エリアス・マーヒッジ監督の『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000年)が作られるなど、後の映画人にもノスフェラトゥは偏愛されている。
同時に描かれるのは、疫病を蔓延させるネズミが、ノスフェラトゥと同様に外国の船から上陸する場面だ。吸血鬼の脅威を、病原菌の広がるおそろしさの象徴として表現する試みが、驚くほどモダンである。早くから生み出された“ホラー映画の頂点”と呼べる1作であり、映画史的にも表現や映像の素晴らしさの点で重要だといえよう。
シリーズが継続中の、“貞子”が登場する『リング』(1998年)も、10/14(月・祝)に上映される。この作品もまた、世界を席巻するジャパニーズホラーの火付け役となった、エポックメイキングな1作であり、映画史に輝くホラー作品である。当日は上映とともにトークイベントも行われ、映画『リング』を生んだ中田秀夫監督が参加することが決定している。
同じく海外で高く評価されている、大林宣彦監督のシュールなホラーコメディ『HOUSE ハウス』(1977年)や、ニトログリセリンを運ぶことを余儀なくされた男の受難と緊迫を描く、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の極限サスペンス『恐怖の報酬 デジタル・リマスター版』(1953年)、そして市川崑監督の美学が炸裂する、“金田一”ブームを作ったミステリー映画の傑作『犬神家の一族』(1976年)なども本企画で上映される。