『凪のお暇』登場人物の“イヤなところ”も明るみにした秀逸さ 手放したことで開けた3人の未来

 原っぱでパンを焼いてピクニック、隣に住む素敵な男の子との恋、古い映画を見てテレビゲームしてトランプして、大勢で山盛りのギョーザ作って……。

 『凪のお暇』(TBS系)で描かれる古アパートの暮らしは、毎週夢のように楽しそうでうらやましくて、でもいつもちょっと悲しかった。

 それはきっとこの日々が長く続かないことが、主人公の凪(黒木華)も観ている私たちにもわかっていたから。お暇は、いつまでも続かない。夏休みは、絶対に終わる。そして予感していた通り、ドラマの終わりに凪たち住人はすべて去り、アパートも消える。

 ああ、やっぱり……と思ったけれど、すべてが無くなってしまったラストは、想像していたよりも悲しくはありませんでした。むしろすがすがしかった。

 ドラマの最初で、住む家も恋人の慎二(高橋一生)も捨ててきた凪は、ドラマの最後でもう一度家と、慎二と、好きになってくれた隣人、ゴン(中村倫也)とを手放す。なんかこれ、脱皮みたいだなって思いました。あるいは、ヤドカリが古い貝殻を捨てるような。

 大きくなるには、それまで身につけていた小さすぎるものを、えいやっ!って思い切って捨てるしかない。今手元にあるものに、捨てたくない、もったいない、としがみついてしまったら、どうがんばってもその大きさ以上にはなれない。

 誰もがその「捨てる/手放す」あとに訪れる成長を知ってるから、そうすべきだと思ってるから、いわゆる断捨離とかこんまりとかそういうものが流行るんですよね。なおかつそれが難しいから、悩んでるんですよね。

 だから、そういう全部捨てるリセットを、ドラマ内で二回もやってのける凪が、ちゃんと痛みを伴って成長していく凪が、かっこよくてすがすがしく見えたんだと思います。

 それにしても、男性二人、どちらもとんでもなく魅力的でしたよね。

 本当の気持ちを凪に言えず、毎回泣いてる慎二の一途さは可愛らしかったけど、モラハラ気質は薄まりこそすれ最後まで残っていた。実家の「毒」で溺れそうになっていた凪と慎二は似た者同士だから、たぶんいつまでも慰め合うだけで、その毒から逃げられない。物語の最後まで、彼らと実家との決着はつかないままだった。そんな二人だから、今は離れるのがいちばんいい。

 「あいつのために何ができるだろう」と考えるまでに成長した慎二が選んだ「凪のためにできること」が、彼女の前から消えることだったのはせつないけれど、それは彼の成長にも必要な「捨てる」ことだったんだと思います。最終回では一度も泣かなかったのも、えらかった。自分の本当の気持ちを伝えきったら、もう素直になれない苦しみで泣くことはない。

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