『凪のお暇』登場人物の“イヤなところ”も明るみにした秀逸さ 手放したことで開けた3人の未来
恋を知らず、目の前の人に、鳩にエサをやるようにその場だけの幸せを分け与えていたゴンは、凪と出会って恋と、それを得られない悲しみを知った。ゴンとの生活、あの笑顔をずっと見られるしあわせは最高だとは思うけど、受け入れてしまったら、ずっとあの部屋から、あるいはあの原っぱから出られない。
凪ちゃんのウィッシュリストに書かれていたのは「自分で運転する」など、ここではないどこかへ行こう、というものばかりで、その願いはゴンと一緒に昼寝する毎日では叶わない。慎二とは対照的に、ずっとふんわり笑っていた彼が、最終回で初めて泣いたけど、これもきっと成長への痛み。
と、理屈ではわかるんだけど、彼らに恋されてどっちも断るなんて、たいへんなことですよね? すごい強い気持ちがないと、できませんよね、そんなこと?
凪ちゃん、強い。絶対、彼女は何年か後、夢のコインランドリーを坂本さん(市川実日子)と経営してると思います。あんな強い意思があるんだから。
登場人物が、だれも完璧な「良い人」ではなく、何かしらちょっとしたイヤなところを持っていたのが、好きでした。その逆で、「悪い人」の奥まで見せてくれていたのも、好きでした。
実は私、元同僚の足立さん(瀧内公美)が、イヤな子だけどどうしても嫌いになれなかったんです。彼女は誰かに「イイネ!」がもらいたくて、上位に立ちたくて、そのためならなんでもする……例えばランチはインスタ映えするおしゃれな店だし、同僚たちに「わかるー」って言ってもらえそうな悪口やうわさ話をずっとしてる。でもそんな必要がない場所、ひとりで参加した婚活パーティーでは、凪とは気づかないまま強気で男たちから彼女を守る。本来はそういう人だったんだろうな、って。
最終回では今までしてきたことが彼女自身にはねかえって、苦い思いをするけれど、そこで声をかけるのが、今まで散々いじってきた相手の円(唐田えりか)なのも、いいです。ただやられてるだけじゃない、女の子。円の、「可愛い女子」のかかえる苦悩まですくい上げてくれてたところも、このドラマはすごくよかった。
あの二人は友達にはならないと思うけど、スナックバブルに通う飲み仲間にはなれそうな気がする。
空気は吸って吐くものだと凪は言ったけれど、彼女のようにはばっさりすべてを捨てられない私たちはたぶんこれからも、その場に応じて空気を読んで作ってなんとかごまかしてやっていく。それが、大人だから。
でも空気が薄くてどうしようもなくなったら、思い切って全部捨てて、お暇することだって、できる。子どものように、毎日を夏休みにしちゃうことだってできる。そんな「もしかしたら」の勇気をくれるドラマでした。
とりあえず今は、スナックバブルで、ママに話を聞いてもらいたいです。
■渡辺裕子(わたなべひろこ)
TVドラマ好きイラストレーター。「月刊ローチケHMV」などで、コラム連載中。
ツイッター:https://twitter.com/satohi11
■作品情報
TBS系金曜ドラマ『凪のお暇』
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ、武田真治
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/