『HiGH&LOW THE WORST』評論家座談会【前編】「川村壱馬くんは『高橋ヒロシ漫画』感がすごい」

加藤「『THE WORST』から入っても全然問題ない」

西森:今『クローズ』を観てから『THE WORST』を観ると、場面は屋上であったり、校舎であったりと近いのに、美術や衣装の方向性は違っていたのが興味深かったです。『クローズ』に出てくる壁の落書きのほうが殺伐としていて、「HiGH&LOW」のほうが全体にしゃれている。

加藤:「HiGH&LOW」の落書きはグラフィティ寄りですからね。そこは、根底にヒップホップカルチャーがあるLDHらしいなって思います。

成馬:喧嘩の場面も、「HiGH&LOW」はダンスの延長って感じがします。

加藤:『クローズ』はアクロバットな動きよりも殴り合いの方向にいってますからね。

西森:衣装にしても、「HiGH&LOW」はお客さんがキャラクターというものを注意深く見ていることを意識している感じがあるんですよね。村山の学ラン+ネルシャツみたいに、色味だったり着崩し方だったりで、同じように学ランを着ていてもそこにキャラクターが反映されているというか。ある種、アイドル衣装の文脈にも近いかもしれません。そういう工夫が必要なんだ、という意図が感じられる。

成馬:ただ、西森さんが言うような楽しみ方がある一方で、これから初めて「HiGH&LOW」を観る人は、「いっぱい人がいて誰が誰だかわからない」ってなると思うんですよ。どの作品から観たとしても。でも、実は「誰が誰だかわからない」という時期ならではの面白さもあると思う。映画版の予告編で、坊主に白ランの鳳仙の不良たちが大量に歩いているシーンとか、「うわっ」ってなるじゃないですか。そういう群体としての人間に圧倒される興奮って、各キャラクターに対する解像度が低い時だからこそできる楽しみ方だと思います。

 ドラマ版のシーズン1をリアルタイムで観ていた時は、そういう楽しさがありました。鬼邪高生が大量に歩いているところで、「なんかよくわからないけど、恐い人たちがいっぱいいる!」って。今『THE WORST』を観ていると、こちらの目が慣れちゃってるから結構、顔が識別できるんですよね。そうすると当初とは違う見方になってくる。あの群衆の迫力は、新しく観始めた人だからこそ味わえる、ここ数年のフィクションでは珍しい興奮だと思う。

西森:鳳仙学園の場合は、グレーの学ランでみんな坊主という画一性が不気味にも見えるという。そのことで、個人のキャラクターではなく、学園のキャラクターというものが際立ってくる。それって、オリジナルの「HiGH&LOW」と、原作ものが組み合わさったからこそのコントラストの違いなんだと思うと面白いですね。

加藤:現実離れした光景を見せるのは、映画というかフィクションの基本ですからね。そういう意味で、今回生まれて初めて「HiGH&LOW」に触れる人は、鬼邪高の荒れ果てた光景を観た瞬間に「なんだこれは」ってなると思う。過去にもいろんな学園ドラマで荒れた高校が出てきたけど、鬼邪高の荒れ方は頭一つ抜けてるし、それなのにオシャレっていう絶妙な塩梅なので。

 そもそも「HiGH&LOW」って、全部観ていても完璧に把握することは無理だと思うんですよ。だから『THE WORST』から入っても全然問題ないと思いますね。「その前にこれを予習しておけ」みたいなことは一切ない。今作で「おっ」と思った人は、ここからでも問題なく楽しめると思う。これから先、このシリーズを追って損はしないですよね。その期待は裏切られないと思います。

(取材・構成=斎藤岬)

※高橋ヒロシの「高」は「はしごだか」が正式表記

■公開情報
『HiGH&LOW THE WORST』
10月4日(金)全国ロードショー
企画プロデュース:EXILE HIRO
監督:久保茂昭
アクション監督:大内貴仁
脚本:高橋ヒロシ/平沼紀久、増本庄一郎、渡辺啓
出演:
【鬼邪高校・全日制】川村壱馬、吉野北人、福山康平、鈴木昂秀、龍、佐藤流司、うえきやサトシ、神尾楓珠、中島健、前田公輝
【鬼邪高校・定時制】山田裕貴、鈴木貴之、一ノ瀬ワタル、青木健、清原翔、陳内将
【鳳仙学園】志尊淳、塩野瑛久、葵揚、小柳心、荒井敦史、坂口涼太郎
【希望ヶ丘団地 幼馴染】白洲迅、中務裕太、小森隼、富田望生、矢野聖人
企画制作:HI-AX
配給:松竹
製作:『HiGH&LOW』製作委員会
(c)2019「HiGH&LOW THE WORST」製作委員会 (c)高橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX
公式サイト:https://high-low.jp/movies/theworst/

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