『引っ越し大名!』お仕事ムービーとしての面白さ 原作者自ら手がけた大胆な改変とは

『引っ越し大名!』お仕事ムービーとしての面白さ

 現在公開中の『引っ越し大名!』はそのシンプルなタイトル通り、引っ越しに苦労する大名と配下の藩士たちを描いた物語だ。

 原作は2014年、2016年に映画化された『超高速!参勤交代』シリーズを手がけた土橋章宏の『引越し大名三千里』。 江戸時代、実在した大名の松平直矩が生涯で7度もの国替えを経験したという理不尽な史実を描いている。

 国替えとは幕府の命により、各藩を収めている藩主及びその配下の藩士たちが統治する藩を移転させられるというもの。おまけに移動先も時期も幕府が決めてしまうという理不尽な制度だ。今作では直矩の5度目の国替えにあたる、天和2年(1682年)の播磨姫路藩(現在の兵庫県)から豊後日田藩(現在の大分県)への引っ越しが描かれる。

 自宅の引越しや、職場の事務所移転などを経験された方ならわかると思うが、引越しはその規模の大小を問わず日数や費用などかなりの労力がかかる。それが藩丸ごとの移転、しかも今作のように兵庫から大分まで何千人も住まいを移すとなれば、その費用は恐ろしい額になってしまう。

 土橋が『超高速!参勤交代』でも描いていたように各大名の参勤交代や国替えなどの移動は、各藩の財力を減退し幕府に逆らわないようにするための措置だった。当然、その命令で実際に苦労するのはその大名の家臣たち、下級武士を含めた藩士たちだ。

 現代に照らし合わせれば、大企業の下請け会社に降ってきた事業のために、中間管理職が部下たちに無理をさせてしまうという構図に似ている。基本的に拒否権はない。さらに、突出したリーダーシップを発揮する人物が少ない組織では、誰しもが責任を取ることを嫌がり、どうでもいい人物に名ばかりの要職を任せてしまうというのもよくあること。そんな現代に通じる社会構造の理不尽さに振り回されるのが、本作の主人公、星野源演じる片桐春之介だ。

 人付き合いも武道も苦手でずっと書庫番(城の蔵書室の管理と警備のお役目)だった彼が、無理やり引越し奉行を任されてしまうも、長年本の虫だった故の知識と予想外の行動力を見せて、難局を乗り切る。立場が人を育てるというように、体よく使い捨てられるはずだった名ばかり管理職の春之介が成長して、引っ越しを取り仕切っていく様に痛快さを覚える人も多いのではないか。

 上からの理不尽な命令に反発するのではなく、その要求に十二分に答えたうえで、上司に向かって「私に権限を与えた以上、あなたにも従ってもらいます」と有無を言わさぬ要求で鼻を明かす場面もあり、時代劇という枠を超えてお仕事ムービーとしての側面もある。

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