多数のキャラクターの人生を描き分ける 『なつぞら』脚本家・大森寿美男の作家性

『なつぞら』大森寿美男の作家性

 NHKの連続テレビ小説『なつぞら』は、朝ドラ100作目という記念碑的作品であることから、表向きのパッケージは「王道朝ドラ」に見える。

 しかし、その実、作品に登場する脇のキャラクターたちは、非ベタであり、ヒロイン・なつ(広瀬すず)よりも周囲のキャラクターのほうに愛着が湧いたり、共感を覚えたりする視聴者が存外多いのではないだろうか。

 実際、脚本を手掛ける大森寿美男自身、会見で「あまり王道パターンにはしたくなかったけど、100作目ということで」と語っていたように、「非王道」「非ベタ」の部分にこそ、本来の作家性が見える気がするのだ。

 その筆頭は、一部視聴者の間で裏ヒロインとも言われる夕見子(福地桃子)の描き方だろう。

 なつが引き取られた柴田家の長女で、なつと同い年の夕見子。ただでさえタメの同性が突然やってきたのだから、その立場の難しさは想像に難くない。まして祖父・泰樹(草刈正雄)は、登校時に畑で手を振るなど、これまでに見せたことのないようなデレデレぶりを見せる。

 しかも、酪農を嫌い、牛乳を飲まず、やりたくないことはやりたくないとはっきり言う夕見子とは対照的に、なつは柴田家に受け入れてもらうため、積極的に酪農を手伝う。

 なつの登場によって、にわかに家庭内での自分の立ち位置が危うくなる中、ベタなキャラであれば、なつの評判を落とそうとするか、ひねくれて意地悪になるところだろう。しかし、夕見子はむしろ柴田家の誰よりもなつのことを見ていて、本音を見せないなつに戸惑ったり苛立ちを見せたりしつつ、なつがやりたいことに向かって進むように背中を押す。

 さらに、本人は進歩的で外向き志向でありつつ、意外にも地元に戻って就職、幼なじみと結婚・出産するという人生を歩む。とはいえ、相変わらず気ままに思ったことをそのまま口にする夕見子ぶりは、健在だ。

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